現在発売中の「セラピスト12月号」第１特集では、精油とハーブで「がん」を癒すセラピストたちの、さまざまな取り組みを掲載しています。その中で、東京都葛飾区の「訪問看護ステーションみどり」で看取りケアを行う、看護師兼アロマセラピスト・川崎順子さんに密着取材をしました。ここでは、本誌未掲載のアロマケアの事例を紹介します。
取材・文◎藤田優里子
川崎さんが実践している「在宅アロマケア」とは？
看取りのアロマケアでは「身体のケア」と共に「心のケア」が大切で、患者本人やその家族を支えることがセラピストの役目でもあります。また、使用できる精油も限られているので、患者の状態を見ながら慎重に選び、ケアを行います。
セラピスト12月号では、「右乳がん」および「右頬粘膜がん」の患者たちへの看取りアロマケアを2例紹介しています。ここでは、「非結核性抗酸菌症」を患う56歳の女性の例を紹介します。彼女の場合、夫の父親が癌の終末期のため、川崎さんが在宅看護でアロマテラピーを導入していました。妻にもお願いしたいという夫の希望により、訪問アロマケアを行うことになりました。
また、本誌にも掲載してある「右頬粘膜がん」の事例を再録します。
事例①
非結核性抗酸菌症末期
【ケアに使う精油ブレンド＆ハーブティ】
［キャリアオイル］
セントジョーンズワートオイル・・ 10㎖
カレンデュラオイル・・・・・・・・・ 10㎖
［ブレンドハーブティー（呼吸器系免疫系ブレンド）］
ユーカリ・・・・・・・・・・・・ 5ｇ
カモミールジャーマン・・・ 50ｇ
ジンジャー・・・・・・・・・・ 20ｇ
ペパーミント・・・・・・・・・ 10ｇ
エキナセア・・・・・・・・・・ 10ｇ
マロー・・・・・・・・・・・・・ 5ｇ
【施術の目的】
皮膚のケア等
【施術内容】
精油のにおいを受け入れられないため、キャリアオイルのみでケアを行う。呼吸器疾患特有の「やせ」で手足に数か所かきむしりの跡あり。皮膚のダメージも大きく、皮膚科にかかっていた。清潔ケア後にキャリアオイルを塗布し、皮膚科指示の軟膏処置を行ったところ、約１カ月でほぼ完治する。その後はキャリアオイルのみを塗布。
嚥下障害のため、食事の形態は軟食だった。ハーブティーが好きだと聞いて、地元のアロマショップでハーブティーを購入。呼吸器系および免疫系に効果のあるハーブ６種類を調合してもらう。味が気に入ったというので、継続してもらう。
在宅数日後、突然の喀血で緊急入院。「家に帰りたい」という本人の希望で、受け入れ態勢をととのえていたがそれは叶わず、病院で突然死。その後、夫のグリーフケアを行うことになり、在宅看護の日々を振り返りつつ、「早く家につれて帰ればよかった」等、心情を打ち明けてくれた。医師や看護師への感謝の気持ちも聞くことができた。
事例②
71歳・女性。右頬粘膜がん（がん性疼痛ありフェンタニルパッチ貼付）。右頬に13×15㎝の巨大な自壊創があり、浸出液及び出血があった。創からの膿性の浸出液のため悪臭もあり、入浴拒否により衰弱も激しく胸や手足に垢が付着していた。
【ケアに使う精油ブレンド】
アロマスプレー
［基材］
ローズウオーター・・・・・・・・ 100㎖
［精油］
ティートリー・・・・・・・・・・・ 20滴
フレンチラベンダー・・・・・・・ 20滴
マッサージオイル
［基材］
スイートアーモンドオイル・・・ 5㎖
［精油］
フレンチラベンダー・・・・・・・ 4滴
オレンジスイート・・・・・・・・・ 6滴
【施術の目的】
感染予防と消臭。皮膚のケア等。
【施術内容】
自壊部にガーゼが付着していて出血のリスクが大きかったため、オリーブオイルでガーゼをはがし、洗浄後にアロマスプレーを噴霧し軟膏による処置を行った。るい瘦が激しく、全身の皮膚が乾燥していた。
そのため、まずはアロマのマッサージオイルで手足や垢のこびりついている部分をエフルラージュし、垢が浮き上がったところで清拭を行い、保湿も含めたケアを行った。在宅37日目、洗髪終了後に心地よさそうな表情を浮かべ、息子さんの見守るなかで息をひきとった。
プロフィール
川崎順子さん
かわさきじゅんこ 「訪問看護ステーションみどり」看護師、英国IFAアロマセラピスト、内視鏡技師。慈恵会医科大学外科病棟に７年勤務後、内視鏡部で主任業務を15年務める。選択定年で退職後、オリエンタル・アロマセラピー・カレッジで学び、IFAを取得し、訪問看護ステーションみどりにて勤務。
