適切な精油を正しく使いこなすことができれば、施術の効果はもちろん、クライアントとの信頼関係を築くこともできるようになります。そのために必要なのが「アロマの化学」。第1特集では、「香りの構成要素は?」といった基本から、メディカル、スポーツ、心理、美容などの専門分野まで、「アロマの化学」に関する16の疑問について、スペシャリスト6人が回答。ここでは、長島司さんに伺った本誌に掲載しきれなかったQ&Aをご紹介します。
文◎長島司さん(ハーブコーディネーター) 構成◎本誌編集部
精油と消臭のメカニズム
「消臭」とは、不快臭をなくすなどにより、快適な空間を作る、あるいは臭いによる不快感をなくすために悪臭物質を消すことにあります。
消臭には、①不快臭を化学反応によって臭気をなくす、②不快臭を生成する原因物質に作用し臭気をなくす、③臭気を快適な香りで覆い(マスキング)臭気を目立たなくする、の3つの方法があります。
精油には一般に不快臭と化学反応するような活性の高い成分は含まれていないため、①は可能性が極めて低く、③については不快臭を香りの一部として使い快適空間を作るもので、調合上の技術になりますが消臭ではありません。つまり、“精油で消臭”とは②の方法と考えます。
消臭対象として、エチケットの観点から体臭や口臭などの不快感をもたらすものがあり、また家屋の空間を不快にさせる臭いなどがあげられますが、これら臭気の主な原因はカビやバクテリアなどの微生物によるものです。
体臭の主な原因は、腋や陰部に多く分布する汗腺であるアポクリン腺から分泌された物質を微生物が分解して臭いを出すというメカニズムがわかっています。また、皮膚常在菌が皮脂を分解すると体臭が発生します。口臭の原因となるのは、口腔内に生育する虫歯菌や歯周病菌を含む微生物が歯肉を延焼させる、あるいは食物を分解して臭気を発生します。
このように、体臭や口臭は微生物が原因となって発生し不快感をもたらしますが、ここに抗菌性のある精油を作用させて悪臭生成の原因となる微生物の生育を抑制し臭いを出さないシステムを作る、これが②のメカニズムになります。
抗菌性が高いとされる精油には、ティートリー、ユーカリ、レモングラス、シナモン、ゼラニウムなどがあり、特にフェノール基を持つチモール、カルバクロール、オイゲノールなどの成分を含むコモンタイムやクローブなどには強い抗菌力があるとされていて、制汗剤や体臭関連菌などへの応用が期待されます。オーラルケアでは、口腔内細菌が歯垢に付着しバイオフィルムを形成し、これにより歯周病や虫歯を引き起こすとともに口臭発生の原因にもなります。マヌカ、クローブ、ユーカリなどにバイオフィルム形成を阻止する効果があり、口腔内疾患や口臭発生を抑制する可能性があります。
このように精油は、悪臭物質と化学反応して無臭化することはできませんが、悪臭発生の原因となる微生物の生育阻止をすることで悪臭を出さないというシステムに作用しているのです。
“消臭効果のあるアロマ”と言いますが、精油による「消臭」の化学的メカニズムを正しく説明できません……。
精油は、不快臭に直接作用し消臭するのではなく、不快臭の原因となるバクテリアや真菌類に作用しています。