由井寅子さんが語る自然の営みに寄り添う土づくりを大切にした自然農

由井寅子さんが語る自然の営みに寄り添う
土づくりを大切にした自然農

巨大な大根! 「自然に育った野菜は、みんな個性があります。曲がったもの、大きいもの、小さいもの、二又になったものなど、同じ畑で育てても、大根も人参も、1本1本が違います」。
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自ら〝百姓〟を名乗り、自然型の農業に取り組んでいるのが、日本豊受自然農株式会社代表の由井寅子さん。
土壌や微生物を大切にした自然農のポイントや、健康に生きるための食について聞きました。
取材・文◎本誌編集部

医師も匙を投げた病から救ってくれたオーガニック

「かつて私は、イギリスで報道の仕事をしていました。仕事で海外に渡るには多くの予防接種を打つ必要がありました。そして生き馬の目を抜くような業界でのストレスフルな生活。さんざん身体を酷使してきた結果、潰瘍性大腸炎を患い、医師からも『治療法がない』と告げられました。そんな私の命を救ってくれたのが、ホメオパシー。そしてオーガニックの食だったのです」

そう話すのは、日本のホメオパシーの第一人者であり、日本豊受自然農株式会社代表の由井寅子さん。

帰国した由井さんは、日本の農業に衝撃を受けます。農薬や除草剤、化学肥料を大量に用いる慣行農業しかやっていない! 英国王室さえそれに取り組むほど、ヨーロッパではオーガニックが当然のものだったのに……。そこで1996年、由井さんは日本に自然型の農業や食事、生き方を伝える活動を始めました。

さらに由井さんにとって転機となったのが、2011年の東日本大震災でした。

「被災地で、多くの人が水と食に困っていました。そして配布される食べ物は保存性を高めるため添加物満載のものが中心。未曾有の災害で心が沈んでいるときです。せめて食事だけでも、安心・安全で楽しめるものが必要では? 安全な保存食の必要性を痛感し、それを実現するために、大規模な自然型農業をやらなければと考えるようになりました」

日本に自然農を広めていくための活動

由井さんは、愛媛県のみかん、イモ、麦を作る農家の出身です。

「貧乏だったので農薬を買えず、結果として自然農を行っていました。毎朝、登校前に農作業を手伝っていたのですが、その経験が今、とても活きています。また、農業を通じて、〝お金がなくとも土と種があれば生きていける〟とも学びました」

そんな由井さんは30年近く自然療法のホメオパシーを実践してきました。そしてその活動の中で、あることに気づきます。

「レメディーで一旦は治癒したように見えても、すぐに同じ病気を繰り返す人がいるんです。何が問題なのかを観察するうち、根深い食の問題があることが分かってきました」

ところが、いざ食生活の改善をしようと探し始めると、世界一の食品添加物大国・日本では、加工品も農作物も化学物質まみれ。毎日安全な食を確保するのは非常に困難でした。

そもそも手に入らなかったり、高価過ぎて手が届かなかったり。さらには、ようやくオーガニックのものを手に入れたと思いきや、日本の有機認証が緩すぎて、回数こそ少ないものの結局農薬や化学肥料が使われている〝有機野菜〟だったり……。

「状況を打開するには農業から変えるしかない! 種を自家採種し、それを育てる。循環型で、もちろん化学品も使わない。そんな本当の自然型農業を始めようと決意しました。さらに収穫した作物で無添加の加工食品を製造する工場も作りました」

田植えの様子。無農薬の水稲栽培では、水田での除草作業が仕事の多くを占めるという。

不自然なものは使わない豊受式自然農のこだわり

由井さんたちが行っている農業は「豊受式自然農」。「豊受」は、『古事記』に登場し、伊勢神宮外宮に祀られている五穀豊穣と食事を司る女神・豊受大神(豊宇気比売神)の名前に由来します。

豊受式自然農では、土壌菌、虫たち、鳥、人や生態系に害を及ぼす農薬、除草剤、化学肥料など不自然なものは一切使いません。また、雄性不稔(F1)、遺伝子組み換え、ゲノム編集などの種も使いません。

「私たちは、先祖伝来の在来種・固定種の種を自家採種して使います。また良い土壌菌が増えていくミネラル豊富な土づくりをしています」

由井さんたちは、第一に〝安心安全であること〟、第二に〝栄養価が高いこと〟を重要視。そして第三に、〝そうはいっても美味しく、見た目が良ければなお良し〟をモットーに作物や加工品を作っています。

自然型農業は、植えたまま放置するのとはまったく異なります。

植物は愛情をかければ確実に応えてくれます。根菜の形が一つひとつ異なるように、植物にも個性があり感情があるのです。刈り取られることを恨みもせず身を差し出す植物は、非常に高い霊性を持っています。だから、愛情と感謝、自然への敬意を以て作物を育て、加工品を作る。そうすると、出来上がった作物や加工品も、愛情の込もった霊性の高いものとなります。

私たちの身体は食べたものから作られ、食べるとは命をいただくこと。愛情と感謝とで作られた食べ物を「ありがたい」と感謝していただくことで、心と身体と魂が癒され、愛と幸せで満たされます。するとその周囲の人たちにも愛と幸せが広がっていきます。

太陽の光を浴びて育つ植物というのは、神の意識を宿した存在。そのような存在を食べることは、本来神人合一の尊い行為でした。現在、それがあまりにも蔑ろにされ、あるいは経済に取り込まれ、さらに化学物質に塗れ人の身体を害するようなものにすり替わりさえしている……。

本来の食を取り戻すことを、希求せずにはいられません。

黄金に輝く大麦、その栄養価の高さは薬草と紛うほどだという旬の野菜たち。ビーツからはたくさんの脇芽が出ていて、生命力の強さが分かる。

大切なのは土壌食べられるほどの土づくり

豊受自然農では、土づくりにも大きなこだわりが。用いるのは600種以上の土壌菌を培養して作った「豊受御古菌」。これに落ち葉や雑草、作物の残渣、竹粉などを加えて発酵させ堆肥にしたり、ボカシを作ったり。自然の中にある不要なものを原料に、ふかふかで微生物も元気な、素晴らしい畑の土を作ることができるのです。化学肥料など、まったく必要ありません。

そして、このような肥沃な土壌で育った作物はまた、栄養価が高く、美味しく、気候の変化や害虫などに負けない、丈夫で強い種を遺します。

「良い土と種さえあれば、人は生きていけます。経済の仕組みの輪から抜け出すことすら可能です。自然からはどんなものだって作れるのです。そして、それを忘れ、自然から離れてしまったがために、人は病むようになったのです」

そして、土壌菌と腸内細菌は、実は同じものなのだそう。「体調を崩したときに、手のひらに少しの土を食べ、見る見るうちに回復した人を見たことがあります」と由井さん。健全な畑で採れた作物ならば、皮付きで食べる方がむしろ身体に良い。皮付きのまま食べることで腸内環境を整え、免疫力を高めることができる。そんな丸ごと食べられる安全で、驚くような力を持った野菜たちが、由井さんたちの畑で育っています。

自然界のあらゆる出来事とすべての生命への尊敬と感謝

「『自然に生かされている』ことを知り、土と自然に畏敬と感謝の念を持って、人々の幸せのために作物を育てる……こんな一番大切な日本人の心を取り戻すことで、日本の農業を復興したい、ひいては日本を復興したいと考えています。これは、私たち豊受の願いです」

そう語ってくれた由井さん。豊かな土壌菌によってふかふかになった土に触れる。自然な種をまいて育てる。収穫したものをいただく。それら一つひとつが、何ものにも代え難い嬉しいこと。そして、その作物やそこから作られた食品を食べた方が、健康に幸せになってくれていることが一番の喜びなのだそうです。

太陽にも、雨にも、風にも、虫にも感謝。そして、雨の日も風の日も夏の日照りの下でも、淡々と草取りをし、作物に愛情をもって接する百姓たちにも―万物と生命、すべてへの尊敬と感謝があるといいます。

そんな由井さんのもとに、今各地から若い人たちが集っているとのこと。新世代の百姓たちが、日本の食を救おうと立ち上がっているということに胸が熱くなりました。

豊受自然農の秋の収穫祭で生姜を収穫する子どもたち。土に触れ、自然に触れることで人は健康になっていく。

自然型農業の六次産業化そしてさらなる普及を

そんな由井さんに、今後の展望も聞いてみました。

「六次産業化を行い、大型農業を目指し、多くの人に自然型農業の必要性を理解してもらえればと思っています。また、家庭菜園やベランダでも気軽に自然型農業ができるよう、種も販売しています。初心者でも失敗なく作れるとしたら、小松菜などの葉物野菜でしょうか」

自然型の農業を行えば、その場所に鳥や虫も帰ってきます。環境が良くなります。何ものも犠牲にしない、どこからも搾取しない、地球と調和した農法なのです。

この農法を広めるべく、豊受式自然型農業を学ぶ学校を開くことも構想中なのだそうです。

「土の微生物も、作物も生きもの。だから当然、愛と感謝の気持ちや見守る温かい心なども伝わります。〝どういう想いで作るのか?〟が、とても大事なことなのです。
安心・安全な食べ物は、身体を健康に戻していく、本来の食べる〝くすり〟だと思います。ですから、一番のお医者さんは、実は食べ物を作る農民、〝農医〟です。それを使って食事を用意する人が2番目のお医者さん〝食医〟。そして、自己治癒力のスイッチを入れる自然療法のセラピストが3番目になりますね。ホメオパスもこれに当てはまります。
多くの方に、この本来の食の大切さに気づいていただきたい。そしてまずは家族など身近な人たちから、健康で幸せにしてあげてほしいと思います」

日本豊受自然農の
作物の恵みを楽しむには……

東京都世田谷区と大阪府吹田市に、日本豊受自然農で作った野菜やハーブなどを直接見て、触って選べる店舗があります。
豊受オーガニクスショップでは、豊受自然農の豊受米や野菜、それらを原料としたオーガニックな無添加加工食品や調味料、お菓子やデザートも購入可能。さらに自然農の材料で作ったコスメやホメオパシー関連書籍、ハーブマザーチンクチャーまでがそろいます。豊受オーガニクスレストランでは、静岡県や北海道にある日本豊受自然農の農園で採れた自然農の豊受米や野菜を中心にした、こだわりのオーガニックメニューを楽しむことができます。
小川料理長おすすめ豊受百姓御膳。豊受の玄米・玄麦・黒米ごはんと野菜がたっぷり味わえる。

◆豊受オーガニクスショップ東京店
[営業時間]10:00~20:00

◆豊受オーガニクスレストラン
[営業時間]昼の部 11:30~15:30(L.O.15:00)
      夜の部 17:00~21:00(L.O.20:00)
[定休日]日曜、月曜
東京都世田谷区玉川台2-2-3 矢藤第3ビル1階
TEL:03-5797-3252

◆豊受オーガニクスショップ大阪店
 (豊受オーガニクスカフェ併設)

[営業時間]9:30~17:30
[定休日]日曜、月曜
大阪府吹田市江坂町1-22-22 盟友ビル3階
TEL:06-6368-5355

土と腸は大事、豊受御古菌

◆豊受オーガニクスショッピングモール
https://mall.toyouke.com
★インターネットでも購入できます

Profile

由井寅子さん
ゆいとらこ 日本豊受自然農代表として、農薬・化学肥料を使用せず、自然な種、土づくりにこだわった豊受式自然型農業を実践し、無添加商品の六次産業化に取り組んでいる。日本におけるホメオパシーの第一人者であり、体・心・魂を三位一体で治癒に導くZENホメオパシーを確立。難病に苦しむ方を救っている。インナーチャイルドを癒し、健康で幸せに生きることができるよう、自然生活を取り戻すことに力を注いでいる。

― お問い合わせ ―

日本豊受自然農株式会社
TEL03-5797-3371
https://toyouke.com