メルヘンをテーマに、絵本や児童文学の世界の香りを創造している「GREEN GRASS」主宰の豊泉真知子さん。全12回に渡り、セラピーライフで『メルヘン』をテーマに多数の童話の香りを制作してもらいます。
果たして、どんな香りに仕上がるのでしょうか?
文◎豊泉真知子
第3回目のメルヘン童話
~新しい年明けの喜びの香り~ 自然を愛した文学者ヘルマン・ヘッセの『イリス』
ヘッセは南ドイツのシュバーベン地方のカルプで生まれました。労働と祈りを重んじるシトー派の、マウルブロン修道院神学校に入学します。学校に入ったものの、ヘッセは繊細さゆえのうつ病におちいり、そこを逃げ出してしまいます。その後は、本屋の店員などをしながら独学で文学を学びました。この、神学校時代の経験を書いた自伝的小説が、名作「車輪の下」です。
ヘッセはメルヘンを書くことによって自分が詩人であることを示そうとしたようです。世の中の無常さに対して、”永遠の、時代を超越した秩序”を見出そうと願いました。それを表現できるのが、ヘッセにとってメルヘンだったのです。
ヘッセがイリス(アイリス、ドイツアヤメ)の花に感じたのは、歴史的な戦いの勝利の象徴というよりも、むしろ母性やイリスの花の香りが持つ女性らしさでした。ヘッセの生涯は自然との関わりからできていて、幼い頃、母に任された「植物の世話をする」ということが、後に結婚して移り住んだボーデン湖畔の庭で、実現できた喜びは大きく、この思い出が物語になっています。
子ども時代の春、アンゼルムは緑の庭を歩き回りました。お母さんの作っている花のひとつにイリスがあって、これは彼の特に好きな花でした。幸福な幼少年時代を過ごしたアンゼルムは、やがて世の中へ出て、ひとかどの人間にはなりました。しかし自分自身の本来の姿を見失ってしまったような気がしてなりませんでした。
そして、イリスという名の女性に結婚を拒まれた時、アンゼルムは自分が世間から疎外されていると痛感してしまいました。世間体も名誉も捨てて、イリスの難しい要望に誠意を尽くそうとしますが、イリスは亡くなってしまいます。
その死後、花のイリスのイメージに導かれ、アンゼルムは秘密の世界への入り口を森の中で見出します。そこは千年に一度しか開かない精霊の門でした。アンゼルムにとって全ての思い出が甦ってきたのです。
『イリス』自然香水レシピ
香りのイメージ
新しい年明けの喜びの香り。ヘッセにとってイリスは愛する人と母がモデルになっています。 イリスが持つ秘めたる女性らしさと、花々に囲まれた希望の香りです。
- 庭の花々
- 幼い頃の母が育てた庭での喜び。
- イリス
- 魅力的な女性。憧れの女性。
- 至福の精霊の門
- 幼い頃の感覚を取り戻し、新しい世界へ。
ヘッセの居たマウルブロン修道院
<作成> ~新しい年明けの喜びの香り~
ハートノート5滴:アイリス3、ローズブルガリア1、ジャスミン1(庭の花々)
ベースノート5滴:サンダルウッド2、乳香1(深い愛)、カカオ1
ヘッドノート8滴:ブラットオレンジ3、マンダリン2、ネロリ2、プチグレン1(喜び)
ニュアンサー1滴:コリアンダー1
※ホホバオイルで作成。全体で5mlに。
修道院ハーブ園のイリス
参考文献)ヘルマン・ヘッセ『メルヒェン』高橋健二訳(新潮社)、『庭仕事の楽しみ』岡田朝雄訳(草思社刊)、『手作りの自然香水ハンドブック』(東京堂出版)
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著者プロフィール
豊泉真知子(とよいずみまちこ)さん
アロマプランナ-、ドイツの精油タオアシス輸入総代理店GREEN GRASS主宰、ドイツの本の出版企画。ヒルデガルトの植物を学ぶ会代表。ドイツ・ヒルデガルトの旅を毎年7月企画。メルヘンと香り展開中。
取材協力◎GREEN GRASS TEL048-886-6613 http://www.egreengrass.com/