メルヘンをテーマに、絵本や児童文学の世界の香りを創造している「GREEN GRASS」主宰の豊泉真知子さん。全12回に渡り、セラピーライフで多数の童話をイメージした香りを制作してもらいます。
“長い髪の毛”でおなじみのグリム童話
『ラプンツェル(Rapunzel)』
女魔法使いが「ラプンツェル、ラプンツェル、お前の髪をたらしておくれ」と言うと、高い塔の窓から長い髪の毛がするすると下りてくる。
ドイツには、たくさんの塔がありますが、カッセルの近くにあるトレデンブルク城の塔が挿絵のモデルで、”ラプンツェルの塔”として、知られています。
グリム童話集は、グリム兄弟が20代から70代に至るまでの間、第七版までに200話が集められました。この間、版が重なるたびに、何度も読みやすいように書き換えられたり、削除されたりしてきました。第二版には画家であった末の弟による扉絵もつけられ、以降、当時の画家たちにより挿絵が載るようになりました。こうして『グリム童話集』は、子ども向けになっていったのです。現在私たちが読むことが出来るのが、この七版をもとに翻訳されたものです。
この『ラプンツェル』も1812年初版の『子どもと家庭の童話集』に載ってから、王子との性にまつわる事柄の表現が子ども向けでないということで、省かれ直され、子どもも読めるお話になったのです。
ラプンツェルは女魔法使いのことを「ゴーテルおばさん」と呼びます。ゴーテルおばさん(フラオ・ゴーテル)のゴーテルは代母の方言で、名付け親のおばさんという意味です。グリム童話の中には、名付け親が重要な部分を占めます。
また、ヨーロッパでは名付け親になるのはとても誇らしく、大切に敬われます。
もう長いこと、子どもが欲しいと願っていた夫婦がいて、なかなか願いが叶いませんでしたが、とうとうおかみさんが身ごもりました。この夫婦が住む家の隣には、ありとあらゆる種類の花や薬草がいっぱいある庭がありました。その中に、目の覚めるばかりの、緑のラプンツェル(ノヂシャ)の畑もありました。しかし、その畑は世間から怖がられている魔法を使う女性の持ち物でした。
お腹の大きなおかみさんは、そのノヂシャを食べたくて、亭主に何度か盗みに行ってもらいました。が、ある晩、とうとう見つかってしまい、怖くなった亭主は、生まれてくる子どもを女魔法使いにあげる約束をしてしまいます。
生まれてきた女の子はすぐに女魔法使いに引き取られ、”ラプンツェル”と名付けられ、美しい子どもに成長しました。やがて12歳になったラプンツェルを、女魔法使いは森の中の高い塔に閉じ込めてしまいます。その塔は入口もなく上の方に小さな窓があるだけでした。大切に育てている娘に、世間の虫がつかないようにするためです。
女魔法使いが塔に入る時に叫ぶ言葉が、「ラプンツェル、ラプンツェル。お前の髪をたらしておくれ」なのです。すると娘は、見事な黄金色の髪をほどいてたらしてきます。それにつかまって女魔法使いが登っていきます。編み上げた髪をほどくと12メートルもあったと言われています。
ある日、森を通った一人の王子が、塔から聞こえる美しい歌声を聴き、何とかして娘に会いたくなりました。そっと隠れて塔への入り方の秘密を知り、いつしか娘と仲良くなってしまいます。事態を知って怒った女魔法使いは、ラプンツェルの長い髪をジョキジョキ切って、身重のまま荒れ野に追い出してしまいます。ラプンツェルは、みじめな暮らしをしながら、男の子と女の子の双子を生みました。いつもと同じように塔に登った王子は、真相を知り、悲しみのあまり塔から身を投げ、茨に当たって失明してしまいます。
その後、泣きながら長い年月森をさまよった末、ラプンツェルと出会うことができました。歌声で分かったのです。そして王子の失明してしまった目は、ラプンツェルの涙が落ちると、見えるようになりました。
『ラプンツェル(Rapunzel)』をイメージした自然香水を制作
『ラプンツェル(Rapunzel)』の香りイメージ
フレッシュな緑の植物に中に、ほんのり甘い野原に咲く花のようなお姫さまの香り
ドイツにはたくさんの塔がある
- イメージ1)おかみさんが夢中になったほどおいしいノヂシャ
- オミナエシ科のノヂシャ(Valerianella locusta)は、グリーンの濃い葉っぱです。ドイツの春は遅く、緑に飢えているこの時期に、この青々とした葉が春の訪れとなり、おいしく食べることが出来るのでしょう。
- イメージ2)女魔法使いの庭
- 怖くて誰も入れない庭には、花や野菜やハーブが満ち溢れていました。その野菜をたくさん食べさせて、お姫さまのように大切に育てたのです。
- イメージ3)長い髪のラプンツェル
- 美しい髪の秘訣はローズマリーやカモミールのエキスでしょうか?
『ラプンツェル(Rapunzel)』のブレンドレシピ
“ラプンツェル”と呼ばれるノジシャの種
ハートノート5滴:メリッサ2、ネロリ1、カモミール・ローマン1、クラリセージ1
ベースノート5滴:カカオ2、ローズウッド2、サンダルウッド1
ヘッドノート10滴:ライム3、ベルガモット2、バーベナ1、バジル2、ローズマリー1、ラバンジン1
ニュアンサー1滴:ベイ1(Pimenta racemosa フトモモ科)
※ホホバオイルで作成。全体で5mlに。熟成は2ヶ月かかります。時々香りを確かめましょう。
参考文献)グリム童話…『初版グリム童話集』吉原高志・泰子訳(白水社)/『グリム童話集1』相良守峯訳(岩波少年文庫)/『目で見るグリム童話』野村泫著(筑摩書房)/モニカ・ヴェルナー著『アロマテラピー実践事典』(東京堂出版)
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著者プロフィール
豊泉真知子(とよいずみまちこ)さん
アロマプランナ-、ドイツの精油タオアシス輸入総代理店GREEN GRASS主宰、ドイツの本の出版企画。ヒルデガルトの植物を学ぶ会代表。ドイツ・ヒルデガルトの旅を毎年7月企画。メルヘンと香り展開中。
取材協力◎GREEN GRASS TEL048-886-6613 http://www.egreengrass.com/