メルヘンをテーマに、絵本や児童文学の世界の香りを創造している「GREEN GRASS」主宰の豊泉真知子さん。全12回に渡り、セラピーライフで多数の童話をイメージした香りを制作してもらいます。
スイスの最も有名な画家の一人、アロイス・カリジュの絵『ウルスリのすず(Schellen Ursli)』
画家アロイス・カリジュは、1966年「国際アンデルセン賞第一回画家賞」を受賞しています。「私は、自分の子ども時代の輝きを、すべての子、とりわけ町の子どもたちに伝えたいと願いました」。これは、受賞時の言葉です。
彼は、スイス・アルプス山脈に抱かれた小さな山村トルンで、1902年に11人兄妹の7番目に生まれました。9歳まで自然の中で育ちます。その村は、スイス四番目の国語「ロマンシュ語」が母国語です。その後、一家で州都クールに越してから装飾画家の見習となり、絵を学びます。1923年からは、大都会チューリッヒで就職。アトリエを構え、グラフィックデザイナーとして活躍します。1939年にフリーの画家として独立した後、結婚して娘が生まれます。1949年にはチューリッヒ市の画家コンクールで優勝し、迎賓館や旧スイス銀行の壁画を制作しました。
この『ウルスリのすず』は、作家ゼリーナ・ヘンツに挿絵を依頼され、第二次世界大戦が終わったその年に出版されて大きな反響を呼びました。二人での作品は『フルリーナと山の鳥』『大雪』と続き、自然豊かな絵が評判となります。
カリジュは、「私が絵を描く本来の意義は、道端にも小さな奇跡が発見できると、人に伝えることです」と言ったそうです。
1960年には家族と離れて故郷トルンに戻り、再び念願だった自然の中での生活に入り絵本を描き続けます。その後、カリジュは村の小学校などに壁画を描き、その絵が村を飾ったそうです。
この物語の主人公は、スイスのアルプス山脈に囲まれた、小さな村に住むウルスリ少年です。
ウルスリは夏になると両親と一緒に、牧場のある山小屋で過ごします。牧場では、牛たちが首に鈴を下げて草を食べています。大きい牛は大きな鈴を、小さい牛は小さな鈴をつけて。そして冬になると鈴を牛から外し、その鈴を小屋において、ウルスリたちは牛と一緒に、ふもとの村で過ごします。
長い冬が過ぎ、3月になると楽しみな冬の終わりを告げる春祭りがやってきます。村の少年たちの鈴行列です。お祭りは、大きい鈴を持った子が先頭に立ち、鈴を高らかに響かせ、晴れやかな歌声を響かせながら村中の家々の、井戸や牛小屋などをまわっていきます。冬を追い出し、また来る春を喜び迎え入れるお祭りです。村の人々はお返しに、たくさんのお菓子や木の実などを少年たちの鈴いっぱいに入れてくれるのです。
ところが、お祭り用の鈴を配る日に、ウルスリは一番小さな鈴をもらってしまい、とても悲しくなりました。「ちびっこ牛のウルスリなんて、嫌なことです!」。
考えている内に、夏の山小屋に大きな鈴があったのを思い出しました。すぐに出発です。深い雪の中をたった一人で向かいます。ようやく、辿り着いた夏の山小屋はカギがかかって入れません。しかし、ぐるぐると入り口を探して何とか中に入れました。中には大きな鈴がありました。ウルスリは安心して、疲れて小屋で眠ってしまいます。
暗くなっても戻らないウルスリを、家では両親が近所の人たちと一緒に探しまわっていました。どこにもいないので、心配で両親は眠れません。朝になり、ウルスリは驚いて飛び起き、鈴を持って村まで一目散にかけ下りました。
お父さんもお母さんも大喜びです。もちろん、祭りの日に先頭をきって得意げに歩いたのはウルスリでした。
ウルスリが大冒険をして、もうちびではないところを見せたかったお話です。
『ウルスリのすず』をイメージした自然香水を制作
『ウルスリのすず』の香りイメージ
清々しいアルプスの山々の、涼しさを呼ぶ樹木の香り
ウルスリの夏の家
農家の羊たち
- イメージ1)モミの木のある山小屋
- アルプスのすっきりした樹木の香り。
- イメージ2)春を迎える初夏の花
- 牛たちが草をはむ草原の草花。
- イメージ3)空気の澄んだアルプス
- 標高の高いウルスリの住む村は、太陽がキラキラと輝いています。
『ウルスリのすず』のブレンドレシピ
~さわやかな風が吹き渡るような、山の香り~
チロルの家
ハートノート6滴:ジャスミンAbs.3、ラベンダー2、マージョラム1(野原の花々)
ベースノート4滴:シダーウッド・ヒマラヤ1、ナルデ1(アルプスの香り)ベンゾインSiam2
ヘッドノート10滴:ハイマツ2、モミ2、トウヒ1(アルプスの樹木)、レモンティートリー1、リツェアクベバ2、レモン3
ニュアンサー1滴:スターアニス1
※ホホバオイルで作成。全体で5mlに。熟成は2ヶ月かかります。時々香りを確かめましょう。
参考文献)アロイス・カリジュ絵、ゼリーナ・ヘンツ文『ウルスリのすず』/大塚勇三訳(岩波書店)/モニカ・ヴェルナー著『アロマテラピー実践事典』(東京堂出版)
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著者プロフィール
豊泉真知子(とよいずみまちこ)さん
アロマプランナ-、ドイツの精油タオアシス輸入総代理店GREEN GRASS主宰、ドイツの本の出版企画。ヒルデガルトの植物を学ぶ会代表。ドイツ・ヒルデガルトの旅を毎年7月企画。メルヘンと香り展開中。
取材協力◎GREEN GRASS TEL048-886-6613 http://www.egreengrass.com/