メルヘンをテーマに、絵本や児童文学の世界の香りを創造している「GREEN GRASS」主宰の豊泉真知子さん。全12回に渡り、セラピーライフで多数の童話をイメージした香りを制作してもらいます。
多く知れ渡ったシンデレラのお話。グリム童話『灰かぶり(Aschenputtel=アッシェンプッテル』
グリム童話の出版より100年以上前の1697年。フランスでは、詩人ペローの『サンドリヨン(意味は灰かぶり)』が出版されています。ペローの昔話集は、伝承の昔話を記録する意図はなく、宮廷サロンの女性向けに書かれたものでした。そのせいか、ペローのお話では、衣装や馬車を与えてくれるのは妖精で、ハシバミの木も小鳥も登場しません。
ヨーロッパでは、ペローよりもさらに60年ほど前に、イタリアの詩人バジーレが出版した『ペンタメローネ』という民話集に、すでに、似たようなシンデレラの話が含まれていました。日本でよく知られているディズニーのシンデレラは、主にこのペローのお話を元に作られています。ペローのシンデレラしか知らない人は、グリムの『灰かぶり』を読むと、魔法使いも出てこないし、最後には残酷な復讐も行われるので、ずいぶん驚いてしまうようです。
グリム童話の『灰かぶり』には、ハシバミという植物が出てきます。このハシバミには大切な役割があります。ドイツの庭には、ニワトコの木と同じくらいハシバミの木が植えられ、親しまれてきました。ドイツだけではなく、ヨーロッパでは8000年も前からハシバミは栄養源として大切にされています。ハシバミは「知識・智恵」の象徴とされ、その枝には不思議な力があると信じられていました。古くから、Y字型をしたハシバミの枝は、水脈や鉱脈を探り当てるための占い棒として用いられ、それはまた、財宝や泥棒、逃げた家畜を探す時に、さらには旅人が道に迷った時にも使われました。
ハシバミには、泉に落ちたその実を食べると、詩的な霊感を授かるという伝承すらあります。12世紀の修道女 聖ヒルデガルトは「ハシバミは快楽の象徴であり、不能の治療薬である」と書き残しています。
ある金持ちの男の奥さんが病気になりました。その奥さんはたった一人の娘に、「神さまを信じて、気立て良く暮らすように。私も天から見守っています」と告げ、亡くなってしまいました。
娘は毎日、母親のお墓で泣き暮らしていました。やがて新しい母親が二人の娘を連れてやって来ます。二人の娘は顔だけは美しく肌は白いのに、心は真っ黒でした。この時から娘の哀れな生活が始まり、古臭い仕事着を着せられて灰にまみれ、継母や二人の娘たちから”灰かぶり”と呼ばれるようになりました。
ある日、父親が教会のミサに行くことになり、三人の娘たちに、お土産の希望を聞きました。灰かぶりは、「帰り道に、最初にお父さんの帽子に触った小枝を折ってきて」と頼みます。継母や娘たちにはそれぞれ望みの洋服、真珠や宝石を与え、灰かぶりにはハシバミの小枝を渡しました。父にお礼を言うとすぐに母親のお墓に向かい、ハシバミを植えて心ゆくまで泣いたのです。その涙でハシバミはすくすく伸び、立派な木になりました。その後、毎日3回ずつ行って泣きながら祈っていると、一羽の白い小鳥が木に飛んで来て、娘の望みのものを投げ落としてくれるようになったのです。
ある時、国中の美しい娘をお城に招待して3日間のお祭りが行われることになりました。王子さまの花嫁を選ぶのです。灰かぶりも行きたいと継母に頼むのですが、それならと灰の中に一皿の豆をまいて「2時間の内に拾うように!」と命令しました。すぐに、白い小鳥を呼ぶと、仲間の鳥たちとで助けてくれました。しかし、今度は二皿の豆を灰にまかれてしまい、また、鳥たちに助けられました。
今度こそ舞踏会に行けると思ったのに、「汚い格好の娘で恥を欠くから、連れて行かれない」と、3人でお城に行ってしました。そこで灰かぶりは、お墓のハシバミの木にお願いすると、金糸銀糸の洋服や絹や銀で縫い取りした上靴を投げ落としてくれたので、急いで着替えて舞踏会に行きました。
お城では美しい娘、灰かぶりを気に入った王子さまが、ずっと灰かぶりと踊り続けました。後を追う王子さまを振り切り家に帰ります。次の日はもっと美しい姿で舞踏会へ。三日目も、それ以上に素敵な姿で金色の上靴を履いて王子さまと踊りました。帰る時、階段に王子が塗らせておいた液体に、片方の上靴がくっつき残ってしまいました。
翌日、王子がその靴を持って、娘たちの所にやって来ました。まずは姉娘に靴を履かせました。姉娘は親指が邪魔になり靴が履けません。母親は娘にナイフを渡し、指を切るよう言いました。無理に靴を履いた娘を王子がお城に連れていく途中、お墓の側を通った時、二羽のハトが「本当の嫁はまだ来ない」と鳴いて知らせました。二番目の娘は踵を切り落とし、同じように二羽のハトが知らせました。他の娘はいないのかと、王子が両親に問いただすと、灰かぶりが手と顔を洗って王子にご挨拶し、靴を履いてみました。王子は一緒に踊った娘だと分かったのです。二羽のハトもついて、揃ってお城に行きました。婚礼の日、姉妹も幸運を分けてもらいたさに花嫁に付き添いました。しかし両目をハトにつぶされてしまいました。
実の母親の愛情と自然が持つ不思議な力(ハシバミや鳥)が助けてくれたお話です。
『灰かぶり』をイメージした自然香水を制作
『灰かぶり』の香りイメージ
舞踏会の香り。気立ての優しい「灰かぶり」が、華やかな舞踏会で優雅に踊った、若々しい花の香りに!
カモミール・ローマン
パートヴェリスホーフェンのハーブ園
お城。クヴェトリンブルク
- イメージ1)母の愛情のハシバミの木
- 母親の愛はカモミールで、逆境にあっても優しい気持ちにあります。不思議な力を持つハシバミは、モミやローレルでイメージを。
- イメージ2)舞踏会での三日間の優雅な踊り
- 華やかな舞踏会は3日続きました。願いが叶って、素敵な衣装で王子さまと踊りました。バラのお庭があったでしょうか
- イメージ3)可愛い花嫁になって幸せを!
- 初々しい花嫁の香りはネロリ。オレンジの白い花は清楚でピッタリです。ミカエルの学名のチャンパカ(マグノリアの花)も、大きな白い花。
『灰かぶり』のブレンドレシピ
~舞踏会の香り~
ローズ。ドイツ植物園
ハートノート6滴:ローズブルガリア2、ネロリ2、チャンパカAbs.1(幸せな花たち)、ローマンカモミール1(母の愛)
ベースノート4滴:乳香ソマリア1、サンダルウッド1(魅惑の香りが広がります)、トルーレジノイド1、バニラエクストラクト1(可愛い甘さも)
ヘッドノート8滴:マンダリン2、オレンジ3(甘さがふっと鼻に心地よい柑橘で)、モミ2、ローレル1
ニュアンサー1滴:コリアンダー2(少し大人の仲間入り)
※ホホバオイルで作成。全体で5mlに。熟成は2ヶ月かかります。時々香りを確かめましょう。
参考文献)グリム童話集(1)」相良守峯訳、「灰かぶり」/岩波少年文庫(1997年)/モニカ・ヴェルナー著『アロマテラピー実践事典』(東京堂出版)
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著者プロフィール
豊泉真知子(とよいずみまちこ)さん
アロマプランナ-、ドイツの精油タオアシス輸入総代理店GREEN GRASS主宰、ドイツの本の出版企画。ヒルデガルトの植物を学ぶ会代表。ドイツ・ヒルデガルトの旅を毎年7月企画。メルヘンと香り展開中。
取材協力◎GREEN GRASS TEL048-886-6613 http://www.egreengrass.com/