ー身近な香りと臭いの植物たちー 匂いのする植物のものがたり「第1回クズのものがたり」

投稿日:2022年7月7日

指田豊、植物

第1回クズのものがたり

クズ

身近にあるけれど、実は詳しく知らない。そんな植物のエピソードを薬学博士・指田豊さんが紹介する連載がスタートします。私たちが日頃から親しんでいる香りもあれば、ちょっと嫌だな……と感じる臭いなど、植物はそれぞれの色や形を持ち、さまざま匂いを放ちます。連載第1回は、「クズ」にスポットを当てて紹介。同時に、雑誌「セラピスト」でも連載をしています。こちらは「バラのものがたり」を紹介。是非ご覧ください。
文◎指田豊

セラピスト誌で紹介!

●はじめに…

雑誌「セラピスト8月号」と、WEB「セラピストONLINE」の同時連載、「匂いのする植物のものがたり」がスタートします。これは身近に見られる匂いのする植物、身近な香辛料やハーブの原料になっている植物について、この植物はこういうものですよ、こんな話題がありますよと色々なことを書きました。植物は芳香だけでなく、臭い(悪臭)のあるもの、キュウリグサのようにキュウリの匂いのする雑草なども取り上げます。芳香のある植物は精油を採ってアロマセラピーに使い、悪臭のある植物でもドクダミは重要な薬草として使いますが、この連載は具体的な使い方には触れていませんので実用書ではなく、読み物として読んでください。そしてこの連載によって皆さまがこれらの植物に親しみと興味を持ってくれると嬉しいです。

●私たちが知らなかった「クズ」のものがたり

クズは、日本各地に見られるつる性の植物で、中国や朝鮮半島にも分布しています。草として扱われていますが、茎の基部はフジのように木質化しています。つるは10mも延び、草原や林を覆うので農家や林業家に嫌われる強雑草です(写真1)。

クズ写真1 空き地に生えたクズ

クズの葉は3枚の小葉からなります。この小葉は太陽の光の強さに感じて動きます。すなわち夜は小葉が下に垂れ下がり、適度な強さの光のときは平らに開いて盛んに光合成を行い、強い光になるとまず真ん中の小葉が立ち(写真2)、次に両側の小葉が真ん中の小葉を挟むようにして立ち上がります。夏の晴れた昼間は全ての小葉が立ち上がり、白っぽい裏を見せています。そのために“恨み葛の葉”という言葉が生まれました。

写真2 日が強くなり裏を見せるクズの葉

繁殖力が強くて嫌われ者のクズですが、実は利用価値の非常に高い植物です。葉は家畜の餌になります。太くて長さが1.5mにもなる根は葛根(かっこん)という生薬になり、漢方で風邪の初期などに使う葛根湯(かっこんとう)の主薬になっています。また、根を水の中で叩くと澱粉が出てきます。これを集めたものが葛澱粉(葛粉)で、葛餅、葛切りの原料になります。
現在では澱粉の原料はジャガイモやトウモロコシなどですが、今でもクズから昔の技法で澱粉を採っている所が奈良県にあり、吉野葛の名で売られています。茎の皮から採った繊維で作った布は葛布(くずふ)といい、昔は盛んに使われていました。
クズは秋の七草のひとつですが、早いものでは7月に花をつけます(写真3)。花の色は赤紫色です。この花は葛花(かっか)とよばれ、二日酔いに効くといわれています。

写真3 クズの花穂 下から順に開花します。

薬草観察会でクズの説明をしているとき、参加していた若い女性が「あ、この花ファンタグレープの匂いがする」と言っていました。確かにそうなのです。しかも花の色も、ファンタグレープ色です。是非匂いを嗅いでみてください。

学名 (科名)
クズ Pueraria lobata (Willd.) Ohwi=P. hirsuta (Thunb.) Matsum.(マメ科)
別名
英名はkudzu(発音はカズに近い)
匂いの部位と匂いの成分
新鮮な花:オイゲノールeugenol、リナロールlinalool、安息香酸メチルmethyl benzoateなど。
話題
クズは荒地でもよく育ち、地面を覆って土砂の流出を防ぐ効果があり、家畜の餌になり、飢饉のときはでんぷんの原料になります。このようなことから1933年に始まったアメリカのテネシー川流域の総合開発ではクズが盛んに植えられれました。住民はクズに感謝し、毎年クズフェスティバルが開かれ、クズの女王が選ばれる有様でした。
しかし、そのすごい繁殖力で、クズはその後アメリカ東南部の森林を覆うようになりました。電力会社は送電線に絡むクズの除去に多額の費用を要しました。助成金まで出して栽培を奨励したクズも今では有害雑草に指定されています。インターネットでkudzuで検索をするとその被害状況の写真が多数出てきます。

著者プロフィール

指田豊(さしだゆたか)さんさしだゆたか 東京薬科大学名誉教授、日本薬史学会理事、日本植物園協会名誉会員。1971年東京薬科大学大学院修了(薬学博士)、1989-2004年東京薬科大学教授。専門は薬用植物学、生薬学。 定年退職後は薬用植物・ハーブを中心に身近な植物の観察と活用に関して、講演、執筆、野外観察指導などをしている。著書に『薬になる野の花・庭の花100種』(NHK出版)、『身近な薬用植物』(平凡社)他。

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