ー身近な香りと臭いの植物たちー 匂いのする植物のものがたり「第3回チョウジのものがたり」

投稿日:2022年11月7日

第3回チョウジのものがたり

チョウジ、クローブ、丁字

私たちの身近には、さまざまな植物が存在します。日頃から親しんでいる香りもあれば、ちょっと嫌だな……と感じる臭いなど、それぞれの色や形を持ち、さまざま匂いを放つ植物たち。連載第3回は、「チョウジ」のものがたりです。同時に、雑誌「セラピスト12月号」でも連載をしています。こちらは「クスノキのものがたり」を紹介。是非ご覧ください。
文◎指田豊

セラピスト誌で紹介!

ヨーロッパ諸国が植民地を求めて航海をしていた時代、その目的の1つが国に莫大な利益をもたらす有用植物の発見でした。チョウジはそのひとつです。
チョウジ(写真1)は熱帯圏に生育する常緑樹で、つぼみを香料や医薬として使います。

紀元前、中国人やアラビア人によりヨーロッパに運ばれ、どこに生育する植物か知らないまま高価で取引されていました。16世紀になり、そのつぼみの原料植物を求めてヨーロッパから東南アジアへ航路が開拓され、1511年にポルトガル船がモルッカ諸島で原料植物のチョウジを発見し、その後ポルトガルが香料貿易を支配しました。17世紀の初めにはモルッカ諸島はオランダ領になり、オランダ政府はモルッカ諸島のアンボイナ島のみにチョウジの栽培を限定し、他の島のものは全部抜き捨てさせました。

こうして独占的な利益を得ていましたが、18世紀になるとフランス人がひそかに苗を持ち出し、東アフリカの島々で栽培を始めました。現在のチョウジの主な産地は東南アジアと東アフリカの島々です。

写真1 チョウジ

チョウジは、枝の先に多数の花を付けます。花は長さ1〜1.8cmの柱状で上端に4枚の厚い萼片と4枚の乳白色で膜質の花弁があります。花が開くと花弁はすぐに落ち、多数の白色の雄しべが現れます。生薬や香料にする丁子(ちょうじ)はつぼみの時期のものを採集して乾燥したものです。水蒸気蒸留をして得た精油も丁子油として利用されます。葉や枝にも含量は低いものの精油が含まれていますので、これも丁子油の原料にされます。

写真2 丁子

丁子(写真2)は、強い匂いと灼くような味があります。肉の臭いを消すために肉塊やソーセージに何本か刺して加熱するという使い方があります。また、オレンジに刺したものをポマンダー(写真3)と言い、室内や自動車内に吊るして香りを楽しんだり、虫よけにしたりします。その他に、たんすに吊るして衣服に香りをつけるという使い方もあります。丁子の粉末も芳香性健胃薬にしたり、カレーや肉料理に使ったり、ソースの香りつけに使います。

写真3 ポマンダー

丁子油は殺菌作用と鎮痛作用があるために、歯科医院で虫歯の処置に使われます。丁子油の匂いを嗅ぐと歯医者を思い出す人がいます。また虫が嫌うので虫よけスプレーの材料にします。ゴキブリはこの匂いが大嫌いだそうです。

ただし、主成分のオイゲノールは刺激が強く、皮膚につくとピリピリすることがあるので注意をしてください。
チョウジはこのように、日常生活で盛んに使われていますが、植物そのものは熱帯産なので植物園の温室でしか見られません。

学名 (科名)
Syzygium aromaticum Merr. et Perry (=Eugenia caryophyllata Thunb.)
(フトモモ科)
 
匂いの部位と匂いの成分
つぼみ(丁子):精油15〜20%を含み、オイゲノール eugenol(70〜90%)、カリオフィレン caryophyllene、フムレン humuleneなどよりなります。精油は、量が少ないが、茎葉にも含まれています。
話題
丁子は漢字で「丁字」「丁香」とも書きます。「丁」は、釘のように上が広がった棒を意味します。英名のクローブ cloveも、フランス語で釘を意味するclouが語源だそうです。

著者プロフィール

指田豊(さしだゆたか)さんさしだゆたか 東京薬科大学名誉教授、日本薬史学会理事、日本植物園協会名誉会員。1971年東京薬科大学大学院修了(薬学博士)、1989-2004年東京薬科大学教授。専門は薬用植物学、生薬学。 定年退職後は薬用植物・ハーブを中心に身近な植物の観察と活用に関して、講演、執筆、野外観察指導などをしている。著書に『薬になる野の花・庭の花100種』(NHK出版)、『身近な薬用植物』(平凡社)他。

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