第6回ハッカのものがたり
私たちの身近には、さまざまな植物が存在します。日頃から親しんでいる香りもあれば、ちょっと嫌だな……と感じる臭いなど、それぞれの色や形を持ち、さまざま匂いを放つ植物たち。連載第6回は、「ハッカ」のものがたりです。同時に、雑誌「セラピスト6月号」でも連載をしています。こちらは「ドクダミ」を紹介。是非ご覧ください。
文◎指田豊
ハッカ(写真A)は、日本の北海道から九州までと朝鮮半島、中国、シベリア、樺太に分布しています。やや湿った草地や溝の脇などに生え、地下茎を延ばして盛んに増える多年草です。高さは20〜40cm、葉を対生します。花は夏から秋に咲き、上部の葉腋に小さな白から薄紅色の花が集まって付きます。野生で生える他、ハッカ油とメントール(写真B)の製造にために大規模に栽培されています。
ハッカの仲間(ハッカ属植物)は世界に約30種があり、大部分が北半球に見られます。日本のハッカ以外にヨーロッパから日本に導入されて栽培、あるいは野生化している主なハッカの仲間には以下のようなものがあります。
●セイヨウハッカ(ペパーミント)
ハッカに似ていますが葉に円みがあり、全体に毛が多いです。
●オランダハッカ (ミドリハッカ、スペアミント)
葉の基部は心臓形。表面はちりめん状のしわがあります。精油はプレゴンを主成分とし、ハッカのメントール臭とは異なります。
●マルバハッカ、アップルミント
葉身は広楕円形で、著しく縮み、白毛が多いです。
以上の3種は花が茎頂に穂になって付きます。
●メグサハッカ、ペニーロイヤルミント
花は茎の上部の葉腋に集まって付き、花の集団は互いに離れていて、茎に団子を並べたように付いています。
ハッカの仲間は、植物全体に精油を含む腺毛が生えています。丸くて毛のイメージからほど遠いですが、植物学では表皮細胞が外側に飛び出したものを、形のいかんに関わらず、「毛」と呼びます。
ハッカの腺毛には2種類あって、大きな丸い粒は腺鱗(せんりん)と言い、小さなものは頭状毛(とうじょうもう)と言います(写真F)。
学名(科名) 学名にはこれ以外の説もあります。
ハッカ Mentha arvensis L.var. piperascens Malinv. ex Holmes
セイヨウハッカ M. arvensis L. subsp. arvensis
オランダハッカ M. spicata L.= M. viridis (L.) L.
マルバハッカ M. suaveolens Ehrh
メグサハッカ M. pulegium L.
(シソ科)
匂いの部位と匂いの成分
全草:精油(1%内外): メントール(-)-menthol(主成分)、メントン(-)-menthone、カンフェンcamphene、リモネン(-)-limonene、プレゴンpulegoneなど。オランダハッカはプレゴンが主成分です。
著者プロフィール
指田豊(さしだゆたか)さんさしだゆたか 東京薬科大学名誉教授、日本薬史学会理事、日本植物園協会名誉会員。1971年東京薬科大学大学院修了(薬学博士)、1989-2004年東京薬科大学教授。専門は薬用植物学、生薬学。 定年退職後は薬用植物・ハーブを中心に身近な植物の観察と活用に関して、講演、執筆、野外観察指導などをしている。著書に『薬になる野の花・庭の花100種』(NHK出版)、『身近な薬用植物』(平凡社)他。