第7回カキドオシのものがたり
私たちの身近には、さまざまな植物が存在します。日頃から親しんでいる香りもあれば、ちょっと嫌だな……と感じる臭いなど、それぞれの色や形を持ち、さまざま匂いを放つ植物たち。連載第7回は、「カキドオシ」のものがたりです。同時に、雑誌「セラピスト8月号」でも連載をしています。こちらは「カリン」を紹介。是非ご覧ください。
文◎指田豊
公園や郊外の畑、道端、背の低い草地などにごく普通に見られる多年草です。春は茎が直立して高さ10〜25cmくらいになります。葉は茎に対生し、ややつぶれたハート形で径は2〜3cm、葉の周囲は凹凸があります。花は4〜5月に咲き、葉の脇に1〜3個が付きます。長さが15〜25mmで花冠は5裂し、淡紅紫色で、下の裂片はやや大きく、紅紫色の斑点があります。
春の姿はなかなか可愛いのですが(写真A)、夏になると急に伸びだし、茎が地面を這うように1m以上も延び(写真B)、垣根を通り越してとなりの家まで侵入するので、“垣通し”の名が付きました。茎の両側に並んで付いている丸っこい葉を硬貨に見立ててレンセンソウ(連銭草)という名前もあります。
葉は精油を含んでいて揉むと芳香があります。東北大学の研究で精油の成分はリモネン、1,8-シネオール、リナロール、メントール、l-ピノカンフォンなどで、芳香の原因はl-ピノカンフォンとのことです。ただ、香りの成分と量は株によって異なり、殆ど香りのないものもあるようです。良い香りのカキドオシはハーブティーにすると美味しいそうです。
カキドオシは民間薬として糖尿病に有効とされています。また、古くは疳の虫(かんのむし、赤ちゃんの夜泣き、ひきつけなど)に効くとされ、カントリソウの別名があります。
ヨーロッパにはセイヨウカキドオシが生えています。カキドオシにそっくりですが、花がやや小さく、長さ15mm、葉の脇に2〜5個付くという違いがあります。ヨーロッパでは自宅やホテルの窓辺を鉢植えやハンギングバッスケットの花で飾っています。アパートを借りるときに常に花を飾ることという条件がつくことがあると聞いたことがあります。私はスイスのマッターホルンのふもとの町、ツエルマットに行ったことがあります。その町の家々の窓にはほとんど花が飾ってありました。花はペチュニアやゼラニウムが多いですが、垂れ下がる草としてセイヨウカキドウシが使われていました(写真C)。
セイヨウカキドオシの葉も揉むと香りがあり、リトアニアでの研究では精油成分はゲルマクレン、β,γ,δ-エレメン、Z-β-オシメン、ジヒドロピノカルボン、フィトールなどで、産地によって精油の組成は大きく変わります。
香りの良いものをハーブティーにしたり若葉をサラダに混ぜるなどの使い方があり、また血液浄化作用、強壮作用、利尿作用があるということで薬に使われることもあるようです。日本でもグレコマの名前でよく植えられています。
学名
カキドオシGlechoma hederacea L. subsp. grandis (A.Gray) H.Hara
セイヨウカキドオシ(=コバノカキドオシ)G. hederacea L.subsp. hederacea(シソ科)
匂いの部位と匂いの成分
葉:カキドオシはα,β-ピネン α,β-pinene、リモネンlimonene、1,8-シネオール1,8-cineol、リナロールlinalool、メントールmenthol、l-メントンl-menthone、l-ピノカンフォンl-pinocamphone、l-プレゴンl-pulegone、α-テルピネオール α-terpineolなど。
セイヨウカキドオシはゲルマクレンB,D germacrene B,D、β,γ,δ-エレメン β,γ,δ-elemene、Z-β-オシメンZ-β-ocimene、ジヒドロピノカルボンdihydropinocarvone、フィトール phytolなどで、産地によって精油の組成は大きく変わります。
著者プロフィール
指田豊(さしだゆたか)さんさしだゆたか 東京薬科大学名誉教授、日本薬史学会理事、日本植物園協会名誉会員。1971年東京薬科大学大学院修了(薬学博士)、1989-2004年東京薬科大学教授。専門は薬用植物学、生薬学。 定年退職後は薬用植物・ハーブを中心に身近な植物の観察と活用に関して、講演、執筆、野外観察指導などをしている。著書に『薬になる野の花・庭の花100種』(NHK出版)、『身近な薬用植物』(平凡社)他。