セラピスト2018年10月号の第2特集では、「ファミリーセラピー」として、家族が仲良くなるためのヒントや、家族問題を解決するためのメソッド等をご紹介しています。 本誌でも、親子の関係づくりについて掲載していますが、さらに精神科医の田村毅さん、セラピストの花丘ちぐささんにも、子どもとの関わり方を伺いました。
構成◎セラピスト編集部
Q 子どもとうまくコミュニケーションできません。
精神科医・田村毅さんの回答
A 子どもに「自分の弱み」を見せてみましょう。
「父親が子どもとどううまくつきあうか?」というご質問について、僕がアドバイスしたいのは、『父親は、自分の心の鎧を外して、子どもに弱みを見せなさい』ということです。それは、「強さ」に固執し、感情を表現するのを苦手とする男性にとっては、いちばん難しいことかもしれません。
なぜなら本誌でも解説したように、男性は、理屈や理論の話はできても、感情を伴う情緒的なコミュニケーションはとても苦手な生き物だからです。家族の土台は、「夫婦」にあるのですが、感情に疎いという男性の性質によって、妻だけではなく、子どもともうまく関係性をつくれないことがあります。
この記事を読んでいる男性の中で、「男は強くあるべきで、きちんと子どもに論理や常識を教えるべき。ときには厳しく接しないといけない」と考える方もいるかもしれません。しかし「厳しさ」だけのコミュニケーションは、子どもには通用しないのです。
最初に「親密性」があってこそ、親の厳しさがうまく成り立ちます。親密性とは、「優しさ」「情緒的な結びつき」です。子どもが父の優しさを感じたり、父子の心と心が触れ合うには、言葉のコミュニケーションが欠かせないのです。「厳しさ」はその次です。これが、30年以上の臨床経験を持つ僕の結論です。
ただ、父が子どもに弱みを見せられるかどうかは、「夫婦がお互いに弱みを見せられるかどうか」に繋がっています。たとえば、自分が悪いとき、奥さんにちゃんと謝れていますか? 謝れていないお父さんは、「自分の弱みを家族に見せていない」かもしれません。
弱みを見せられるようになるには、「夫婦間のコミュニケーションをたくさんすること」に尽きます。女性と男性では考え方が違うという前提を理解しつつも、意見の違いを怖れずに対話をしましょう。ときには傷つけ合うこともあるかもしれませんが(無視や暴力はダメですよ!)、たくさん良いケンカをして、上手に仲直りをしてください。
そうして夫婦が信頼し合える関係になると、夫も心の鎧を脱げて、妻が夫の弱みを「大丈夫」といって支えてあげられるようになり、子どもの前でも弱みを見せられるようになります。
人は誰でも強さと弱さを持っていますね。本当の強さとは、表面的な強さに固執して弱さを否認することではなく、自分の強さばかりでなく弱さも受け入れることだと思います。女性は、そのような男性の姿にとても安心するものです。
田村毅さん
たむらたけし 「田村毅研究室」代表。思春期・家族精神科医。思春期と家族の精神医学に35年以上携わり、1,000件以上の不登校・ひきこもり事例に関わる。日本家族療法学会副会長。東京・広尾でクリニックを開業している他、「ひきこもり脱出講座&交流会」「家族のためのカウンセリング講座」も開催。著書に『ひきこもり脱出支援マニュアル』(PHP研究所)など。
取材協力◎田村毅研究室 TEL03-6804-2191 https://www.tamuratakeshi.jp/
Q 子どもが言うことをききません。
セラピスト・花丘ちぐささんの回答
A 怒りをぶつけると、子ども(動物)は脅威を感じてフリーズするものです。
私は人の神経系にアプローチして、家族問題を始めとしたトラウマを癒すセラピストをしています。ここでは神経系の理論と実践に基づく、子どもとの関わり方について、お伝えします。
「つい子どもを怒ってしまう」。子育ては毎日のこと。どうしてもそうなってしまうことはありますよね。ただ、「感情的に怒る」ということについては、親御さんご自分が情動をコントロールできたほうがいいと思います。
なぜなら、身体の神経系のメカニズムからいうと、「怒りをもって子どもに接すること」は全くもって“非効果的”だからです。親が感情的になっていると、子どもは「危険」だと思うので、神経系を閉じて、外からの刺激をシャットアウトしてしまう。つまり、上の空になるということですね。動物にとって、敵意を剥き出しにしてくる生き物は「脅威」ですから、敵(親)から身を守るためにそうした反応をするのです。これは動物にとって、ごく当たり前のことです。 ですから、どれだけ親が子どもに怒っても、子どもは“何も聞いていない”し、“何も学んでいない”のです。子どもに効果的に何かを伝えたいなら、親がまず自分の情動をコントロールしてから話すことです。
とはいえ、親もそんなに完璧ではありません。一般的には、7割方、普通に接してあげていれば(専門的には「応答性がある」という)、子どもは良い子に育つと言われています。だから、10回のうち3回ぐらいは、出来ないときがあってもいいと思いますよ! そんなにムリをしなくても良いんじゃないでしょうか。
アドバイスとしては、「怒らないようにしよう」ということに焦点を当てるのではなく、「どうやったら子どもと一緒に楽しめるか」ということに目を向けて、その機会を増やしていくこと。そうすると、怒る機会は少なくなると思います。 親がいつもにこやかであれば、子どもはリラックスして、社会的なつながりを育むことができます。また、親が他人との関わりを避ける傾向にあると、子どももそうなりやすいですね。やっぱり、親は鏡なのです。
花丘ちぐささん
はなおかちぐさ 「国際メンタルフィットネス研究所」代表。日本健康心理学会認定専門健康心理士、ソマティック・エクスペリエンシング(tm)・プラクティショナー。深刻な虐待やモラルハラスメントに苦しむ人などを中心にセラピーを行い、トラウマ解放個人セッションは2,000時間を超える。翻訳書に、『トラウマと記憶』(春秋社)など。
取材協力◎国際メンタルフィットネス研究所 info@i-mental-fitness.co.jp http://i-mental-fitness.co.jp/