セラピスト誌連載中の『人と自然をつなぐ、日本産精油』。日本産精油ブランド「yuica」を誕生させ、日本産アロマの業界を牽引する稲本正さんが、さまざまな専門家と往復書簡を交わし、日本産精油の普及と、それを通した健康づくりの方法を探っていく企画です。連載第3回は、アスリートケアに日本産精油を活用しているアロマセラピストの小林摩希さんが登場。ケガを防ぎ、試合で良い結果を出すための「日常の身体のケア方法」について、手紙を交わしていただきました。
構成◎本誌編集部 写真◎山下由紀子、漆戸美保
小林摩希さんから稲本正さんへの手紙
睡眠ケアをきっかけにして、毎日の身体のメンテナンスを習慣化させたい
稲本正様
先日はお返事をいただき、ありがとうございました(セラピスト2018年12月号 日本産精油連載)。 私がスポーツ選手へのケアで一番活用しているミズメザクラ精油は、稲本代表が大変なご苦労の末、抽出に成功されたということが分かり、これからも大切に、丁寧に使っていこうという気持ちを新たにしました。 一通目の手紙で書いたように、「日常的に身体をケアする」という意識を多くの人に持ってもらうには、時間が必要かもしれません。なぜなら“身体のケアは今すぐ必要だ”という自覚を持ちにくいからです。 そこで、私が考えたのは、睡眠の質を高めることから身体のケアを始めてもらうということです。睡眠不足は、多くのスポーツ選手が問題として意識しやすく、運動後のケアと同じくらい重要です。近年、「睡眠負債」という言葉が流行語のトップ10に入るなど、一般的にも睡眠の大切さは知られるようになってきました。
しかし、「日が昇ったら活動を始めて、日没とともに休息に入る」、そんな自然のリズムに調和するような生活を現代で送ることは、ほぼ不可能かもしれません。とくに私が関わっているJR東日本ラグビーチームは、駅員・車掌・運転士として働く選手が多く在籍し、規則正しい生活を送ることが難しく、実際、睡眠に関する悩みを聞くことも多いです。
そんなとき、日本産の精油やハーブウォーターはとても役立ってくれます。優しく、どこか懐かしい香りが広く受け入れられやすく、男性ばかりのチームでも使いやすいといった特徴があるのです。特に、クロモジのアロマウォーターは精油に比べて扱いも簡単で、すぐに生活に取り入れてもらいやすいです。「全く眠れない日が続いている」と悩んでいた選手は、就寝時にこれをスプレーしただけで「気がついたら朝だった」とその効果を実感し、私が見ても、しっかりと深い睡眠がとれた様子がうかがえました。
ただし、運動後にケアをして良質な睡眠を心がけていても、競技を続けている以上、100%ケガを防ぐことは難しいです。怪我による戦線離脱を余儀なくされる選手は、身体へのダメージはもちろん、メンタルにも大きな負荷がかかります。 アロマ未経験の方にはあまり知られていないことですが、香りはメンタル面でも選手へのサポートが可能です。ただし、「好き」「心地よい」と感じる香りでないと、その効果は激減するようです。 例として、私が以前、ケガをしている選手に「ニオイコブシ」をメインとした日本産精油ブレンドでトリートメントさせていただいた時、「復帰へのモチベーションが上がった」と感想をいただいたことがあります。この出来事は、日本産精油をメンタルサポートとして大いに活用することへの自信にもつながりました。また、外国産精油と日本産精油の香り比較調査で、総じて日本産のほうが高い評価となった結果も、とても興味深いです(『日本の森から生まれたアロマ』(稲本正著・世界文化社刊)参照)。 実際に使用してみれば、そのメリットを実感する力が日本産精油にはあると感じています。より多くのアスリートに日本産のアロマを広めていくためには、「気軽に試すことのできる機会を増やすこと」が課題と考えています。 小林摩希
稲本正さんから小林摩希さんへの手紙
「クロモジ漬け」で睡眠負債を返上すれば、試合にも勝てます!
小林摩希様
睡眠は、アスリートだけでなく、一般の人にとっても、極めて大切です。 小林さんがおっしゃるように、スポーツをして心身を鍛えて、頑強な身体と精神を獲得した人は、かなりの無理が効きます。睡眠不足であっても、スポーツも仕事も熟せたりします。スポーツをしている人は、かえって無理をしやすい傾向にあるかもしれません。 私個人のことで言っても、中学時代は野球少年で、しかも富山県という田舎の中では「強いチーム」だったので、ここに書くことができないような“特訓”を受けました。私は小さい身体の割には体力的に相当強くなり、かつ、試合にも勝ち抜いたので精神も鍛えられました。 すると、自分の心身に対して自信過剰になり、多少調子が悪くなっても「大丈夫、大丈夫」と無理をするようになりました。私は大学入学後は、監督も務めて、バッテングピッチャーまでやっていたら、案の定、肩が壊れました。いまだに肩と肩甲骨の周りが痛みます。
ですから、アスリートに予防医療として「肩や肘や膝や脚・首を、大切にしろ!」と言っても、当の本人は「大切にしたいのは山々だけど」と思いつつ、“心身が壊れる限界ライン”を自己流に設定し、無理をしてしまうのです。そして壊れてから、「失敗した!限界ラインの引き方を間違えていた!」と気づくのですが、「時、すでに遅し」です。 ミズメザクラの精油は、筋肉を柔らかくする働きがあるので、結果的に“壊れる限界ライン”を上げ、ケガを防ぎやすくなります。しかし、だからと言って、絶対に選手に無理をさせてはいけません。アスリートをケアするアロマセラピストは、彼らが無理をしないよう、「時に本気で叱りつけ、抑制すること」が大切だと思います。 ミズメザクラ それでも、「なかなか言うことを聞かないのがアスリート」です。そんな人でも、試合で実力を発揮できずに負けた時は反省します。実力を発揮できない大きな理由の一つが、小林さんも指摘する「睡眠不足」です。 私は、試合前日でも眠れる人!でした。しかし一度だけ、眠れずに野球の試合に出たときに、「球が半分霞んで見え、しかもメチャクチャ早く見える」という事態に落ち入りました。いつもは選球眼が良く、最高調の時は「球が止まって見える」くらいだったのに、そのときは自信が無くなり、全く仕事をさせてもらえませんでした。 現在、私が「今日は寝なくちゃいけない!」 という時は、夕食前に風呂に入り、クロモジの入浴剤やクロモジのシャンプーなどを使い、クロモジのトリートメントクリームやクロモジのアイクリームなどをつけて眠ります。いわば、自分を「クロモジ漬け」にするのですが、すると「 わあ~、今日はよく眠れた!」 となり、体内時計が戻ります。 ただし、クロモジ漬けをいきなり試合前にやるのはおすすめできません。疲れが一気に出て、睡眠負債を一気に返すことになりますが、寝過ごしたり、身体が鈍ってキレがなくなるからです。ですから、小林さんが言われるように、日頃から「睡眠負債」を返していく習慣をつけることが大切です。私は、「一週間に一度、クロモジ漬け」を守ることを心がけています。 クロモジ ぜひ、ミズメザクラで筋肉痛を和らげる!と共に、クロモジのアロマ関連グッズで快適睡眠を確保して体内時計が崩れないよう!アスリートたちを上手く誘導して、さらなる成果を上げて下さい。 稲本正
アロマセラピスト
小林摩希
こばやしまき 「アロマステーション凛々香」代表。yuica日本産精油スペシャリスト。20年以上、指導者としてアスリートやダンサーと関わり、怪我による戦線離脱や引退を目の当たりにし、自身も不調に悩まされた経験から、セラピストに転身。アスリートから一般のスポーツ愛好家まで、さまざまな人の疲労回復をサポートしている。
アロマステーション凛々香 http://aroma-japanese.com/
日本産天然精油連絡協議会専務理事
稲本正
いなもとただし 1945年、富山県に生まれる。「正プラス株式会社」代表。一般社団法人日本産天然精油連絡協議会専務理事。国産精油yuicaブランドを立ち上げ、日本生まれの精油の普及を牽引する。1994年、著書『森の形 森の仕事』(世界文化社)で毎日出版文化賞を受賞。『森の惑星』(世界文化社)プロジェクトで世界の森林を訪ねる。
取材協力◎正プラス株式会社 https://www.yuica.com/ 一般社団法人日本産天然精油連絡協議会 TEL03-3423-7156 https://j-neoa.or.jp/