「ビジネス分野」に日本産精油を広めるために

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“身土不二”という言葉が表すように、日本の私たちの身体には、日本の自然の香りがとてもなじみます。この記事では、本誌で連載中の『人と自然をつなぐ、日本産精油』でご紹介しきれなかった、日本のアロマの魅力について往復書簡を交わしていただきます。今回の往復書簡のお相手は、ポータブルアロマディフューザー「AROMASTIC」の開発者・ソニー株式会社の藤田修二さん。ビジネスパーソンに向く日本産精油について、ディープなお話をお届けします。
構成◎本誌編集部 写真◎山下由紀子、漆戸美保

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藤田修二さんから稲本正さんへの手紙

「視覚や聴覚」の相乗効果で、日本産アロマの魅力はより伝わる

稲本正様

先日はお返事をいただき、ありがとうございました。

私は、好きな香りを持ち運べ、かつパーソナルに香りを楽しめるポータブルアロマディフューザー、AROMASTIC(アロマスティック)を開発、販売してきました。


https://scentents.jp/aromastic/

そして、専用の香りカートリッジのラインナップのひとつであるAROMASTICカートリッジ for Relaxには、「日本の森へ、おかえりなさい」をテーマに、匂辛夷(ニオイコブシ)、翌檜(アスナロ)などyuicaブランドの5つの日本産精油を用いています。


https://scentents.jp/aromastic/product/cartridge/206_for_relax.html

このカートリッジのコンセプトには、「忙しいビジネスパーソンの1日のさまざまな場面で、香りを使ってひと息ついてほしい」という思いを込めました。ビジネスパーソンの1日には、朝にシャキッとしたい瞬間もあれば、商談前の緊張する瞬間、午後の眠気を吹き飛ばしたい瞬間、会議後の興奮を鎮めたい瞬間、そして次の日への英気を養うおやすみ前のリラックスタイムなど、さまざまなリラックスを求める瞬間が訪れます。

それぞれのシーンに応じて、5つの異なる印象の香りで「日本の森へ、おかえりなさい」と、一瞬にして一息のリラックスへといざないたいと考えています。

「森の香り」というと、一般のビジネスパーソンの方は、森林浴や、またはヒノキのような香りといった画一的なイメージを漠然と思い浮かべられる方も多いかと思います。でも実際には、日本の森の樹々は、本当にバラエティ豊かな香りを持っていますね。私自身もさまざまな日本産精油のサンプルをかぎ、その多様性を実感したことはとても新鮮な経験でした。

以前、香りの好みをアンケートに取った際に、匂辛夷(ニオイコブシ)と黒文字(クロモジ)が人気を大きく二分しましたが、それら2つの香調は全く異なります。

ニオイコブシは華やかでシュッとする明るい香りで、目覚めの朝にぴったりとはまりますが、クロモジ(写真)は凛としながらもふわりと落ち着いた深みがあり、こちらはおやすみ前に使いたい香りです。

以前、稲本さんから、「日本の森は世界でもまれな、さまざまな気候帯を持っている」とお聞きしましたが、このような気候帯は、日本産精油の香りの多様性を生む1つの理由となっているのでしょうか

また、話は変わりますが、ある男性ユーザーから「AROMASTICの日本の香りは、全て漢字で表現されている。それを見て、従来の西洋のアロマと比べてインパクトがあり、好奇心をそそったので、製品を手に取った」と伺ったことがあります。

これは「クロスモーダル効果」と呼び、視覚や聴覚の情報と一緒に香りをかぐと、香りの感じ方が異なるというものです。その方の感想を聞いて、「名前の表記ひとつとっても、香調の印象は変わるかもしれない」と思ったことがあります。

稲本さんは、香り以外の面で、日本産精油のユニークさを感じられることはありますでしょうか? ぜひ教えていただけると幸いです。
藤田 修二

稲本正さんから藤田修二さんへの手紙

AI+AROMASTIC+国産アロマの融合で、世界に通用する新しい日本のアロマが生まれる

藤田修二さま

連絡ありがとうございました。

自分の好みの香りを入れて楽しめる、AROMASTICカートリッジが新たに出ましたね。アロマテラピーに興味があり、自分なりの香りをつくりたいと思ったり、調香に自信がある人には朗報だと思います。今後は「AROMASTICのための調香講座」を開いても良いかもしれませんね。

ところで、藤田さんからの質問の答えですが、日本は世界の温帯の中で、最も生態系が豊かな国です。植物の種はヨーロッパの4倍ぐらい多く、固有種は10倍も多く存在しています。種の数が多いと当然、精油も多種多様なものが抽出できます。20世紀に入ってからのアロマセラピーはヨーロッパが中心だったこともあり、精油もヨーロッパで摂れていると誤解している人は多いのですが、大きな間違いです。海外産のアロマの生産地はアフリカ、中東、東南アジア、中米、南米 がほとんどです。それらの生産地は熱帯や亜熱帯で、生態系も豊かですが、温帯の人には強烈すぎる香りが多く、結局、日本人には「温帯の日本国内の植物の香り」が穏やかで最も受け入れやすいのです。

そろそろ日本人も「自国が精油生産に世界で最も向いている国だ」という客観的事実に気づいたほうが良い時代になったと言えます。

2番目の質問で、AROMASTICのユーザーが、パッケージの表記を見て日本産アロマに興味を持ったというのは、漢字が表意文字だからだと思います。香りは他の4感と連動していて、視覚とも大いに関係があります。yuicaの場合は「色」を使っています。気持ちが落ち着くクロモジ関連製品を濃いグリーン色にして、ニオイコブシ関連製品をオレンジ色のパッケージにしているのは、視覚とつながりを念頭に置いているからです。人を見て、「顔色が悪いですね!大丈夫ですか?」と聞いたりしますね。人間には、見た目で心身の状況を推察する能力があります。


藤田さん、そこで提案があるのですが、aiboが持つ「相手の識別能力(生物学的に考えたら『カンブリア(※)革命』ですね)」をAROMASTICに加えて、使う人の状況を察知し、【やすらぎ】や【めざめ】の香りを自発的に出す、「新AROMASTIC」を開発されたらどうでしょう? ぜひ試みてください。

最後に、日本文化と香りの関係について書きたいと思います。

日本には、源氏香や茶道の例を出すまでもなく、深く長い香りの歴史があるのですが、太平洋戦争以後、一時途切れて無臭文化となりました。そこに過去の伝統と全く違った流れで西洋のアロマセラピーが入り、日本文化の香りとアロマはかけ離れてしまいました。

しかし日本産アロマが広がり始めたことで、「森の香りのおしぼり」や「匂い袋」や「森香炉」など……。いろいろなところで、過去の日本文化とアロマがつながり始めています。AROMASTICも日本産精油と融合することで、「新しい日本を代表する海外向け発信ツール」として、オリンピック前後にもっともっと広がる気がします。

ぜひ、「カンブリア革命を経た新AROMASTIC」を目指して、さらに世界にアピールしていきましょう。
稲本 正

※カンブリア・・・カンブリア紀のこと。推定約5億4200万年前〜約2億5000万年前の時期。この時期に生命の大爆発が起こり、多種多様な生物が地球に誕生したとされている。

AROMASTIC開発者
藤田修二

ふじたしゅうじ ソニー株式会社Startup Acceleration部OE Projectプロダクトマネジャー。理学博士。バーチャルリアリティの没入感を高めるツールとして、嗅覚を刺激する香りのアイテムに着目。ソニーのスタートアップの創出と事業運営を支援するSeed Acceleration ProgramでAROMASTICを発案・開発。AROMASTICは、ビジネスシーンでの使用の他、闘病中の気分転換に使うユーザーもいる。
取材協力◎ソニー株式会社 http://scentents.jp/aromastic/

日本産天然精油連絡協議会専務理事
稲本正

いなもとただし 1945年、富山県に生まれる。「正プラス株式会社」代表。一般社団法人日本産天然精油連絡協議会専務理事。国産精油yuicaブランドを立ち上げ、日本生まれの精油の普及を牽引する。1994年、著書『森の形 森の仕事』(世界文化社)で毎日出版文化賞を受賞。『森の惑星』(世界文化社)プロジェクトで世界の森林を訪ねる。

取材協力◎正プラス株式会社 https://www.yuica.com/ 一般社団法人日本産天然精油連絡協議会 TEL03-3423-7156 https://j-neoa.or.jp/

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