「身体の芯からやすらぐ香り」として、日本の森や畑で育つエッセンシャルオイルがアロマセラピストや業界関係者の間で再注目を集めています。良い香りということは、つまり、脳や自律神経へも良い影響を与えるということ。この記事では、本誌で連載中の『人と自然をつなぐ、日本産精油』と連動して、日本のアロマの魅力を往復書簡でお届けします。今回は、伊勢志摩のリゾートスパ「アマネム」のウェルスマネージャーの小林千恵子さんが登場。日本産精油の業界を牽引する稲本正さんと「体内リズム」について手紙を交わしました。
構成◎本誌編集部 写真◎山下由紀子、漆戸美保
小林千恵子さんから稲本正さんへの手紙
「身体が整う体験」が、生活習慣を正して、体内リズムを整えます
稲本正さま
伊勢はさらに春めき、桜の開花を心待ちにしています。
先日、稲本さまから教えていただきました、精油と体内リズムに関するお話はとても勉強になりました。
私は「東洋医学」の考えに基づいて、マクロビオティックの知識や鍼灸指圧師であることを背景に、身体を養生するためのアドバイスをさせていただいております。お客さまが“自分の身体の中で何が起こっているか”を知っていただくことで養生が終わった後も、ご自身でケアをする意識が芽生えるからです。
まず宿泊1日目は、コンサルテーションをじっくり1時間行います。顔や舌、爪の色や形状から健康状態を見る「望診」をし、現在の身体の状況を明確にします。そして4日間をかけてホリスティックなケアを受け、“良い兆候”が現れると、「このようにして身体をケアすることで、心身ともにリセットされる」と新たな発見することで、お客さまご自身の認識が変わります。
一度でも身体が整った体験をすると、自分の軸がブレにくくなり、正しい生活習慣が定着しやすくなります。体内リズムを取り戻すためには、ときには非日常の空間でゆっくりくつろぐ時間を味わうと良いのではないでしょうか。それに日本産精油を組み合わせると、より効果的だと思います。
アマネムのスパ。東洋医学に興味を持つ医師が訪れることも
もちろん、日本産精油というものは、日常でも重宝するものです。
日々の暮らしで使うならば、私は筋肉疲労があるときに、ミズメザクラの精油を選びます。オイルトリートメントをすると、腕の疲れが一気に軽くなります。また、寒い季節は生姜やみかんの精油を使うこともあります。
そういえば、アマネムのスタッフが、「日本精油で、オーガニックなフリスクを作ってもらえないか」と申しておりました。セラピストを見ていると、接客の切り替え時にフリスクを口にする人が多いのですが、人工的なものではなく、ナチュラルなものを欲しているようです。たとえば、米粉と、日本のアロマ…たとえばハーブウォーターなどの材料で。稲本さまにぜひ開発していただけたらうれしいです(笑)。
また、天然の香りは記憶に残るもの。yuicaとアマネムの共同開発のブレンド精油、「利休(Rikyu)」は海外のお客さまにとても人気です。欧米等にはない香りを「ZEN」(禅)と表現される方も多く、先日は、イタリア人の紳士な男性が何本もご購入され、お持ち帰りになられました。
アマネムとyuicaがコラボレートしたオリジナルブレンド精油「利休」
身体を整え、記憶を彩るものとして。日本産精油を通して、アマネムのひとときを、さらに豊かにしていきたいと思っています。
小林 千恵子
稲本正さんから小林千恵子さんへの手紙
日本産精油とともに、自律神経測定器機を使うことも役立ちます
小林千恵子様
小林さんが、セラピーに鍼灸を取り入れていらっしゃると聞いて、うれしく思っております。
日本産精油と鍼灸をうまく組み合わせると、ケアの世界が広がると思います。その組み合わせをシッカリと完成させた人はあまりいませんが、私の知り合いには、鍼灸と日本産精油を組み合わせたケアを試みている人は何人かいます。たとえば、ミズメザクラとライスキャリアオイルのトリートメントをしつつ、筋肉痛に効くツボに鍼や灸を行えば、効果は倍増することが予想されます。ぜひ市販されている筋硬度計(筋肉の硬さを測る機器)などでエビデンスを積み上げてください。
現在では、アロマテラピーを取り入れる鍼灸院も増加している
ところで「体内時計とアロマの関係」を、少しだけ説明しましょう。
植物も動物もそして人間も、外界に必ずしも影響されない「生活のリズム」を持っています。「体内時計(サーカディアンリズム)」といい、これが狂っている現代人は実は多いと思います。昔は、日の出と共に目を覚まし、日の入りで家に帰り、夜になると寝入る生活でしたが、現代は夜も昼と同じように明るく、真夜中までテレビやスマホの電子画面を見ています。さらに、都市に人が集中して社会組織が複雑化しているので、当然ストレスが溜まります。
ストレスをうまく発散できないと、多くの場合、自律神経−−すなわち交感神経と副交感神経のバランスがおかしくなってきます。さらに悪化すると自律神経失調症になります。この体内リズムの乱れは、人を疲労させて、人を老化させます。
最近は、心拍変動を測ることによって、疲労度を数値化する機器が発売されています。「疲労ストレス測定システムVM500」というもので、5分ほど測定するだけで、タブレットやスマホのアプリに「疲労状態」が数値化されます。さらには、「疲労年齢」も出ます。
私の場合は体調が悪いときに測ったら、「自分の年齢より2歳年寄りだ!」という数値が出ました。そこでライスキャリアオイルと日本産精油でトリートメントをしてもらって自律神経を測ると、年齢より2歳若くなり、さらにクロモジ漬け(クロモジの入浴剤で風呂に入り、クロモジのシャンプーやボディソープを使い、クロモジの化粧水やトリートメントクリームも塗る)をしたところグッスリ眠れて、翌日計ると何と「20歳も若返った」という数値が出ました。実際、体調もスコブル良くなりました。
全国でさまざまな品種が存在するクロモジ。日本産精油野代表的な存在になりつつある
アマネムでも、この機器を簡単に使うことができます。スパでアロマトリートメントをする前に疲労度を測定し、施術後に測定してみてください。トリートメント直後は、体内に精油成分がじゅうぶんに回っていないことがあり、結果がすぐに出ないときもあると思いますが、アマネムなら、2〜3日宿泊する方が主なので、翌日に効果を測れるでしょう。精油選びが間違っていなければ、良い結果がキット出て、お客さんはさらに喜ぶと思います。
この自律神経測定器の導入は、アマネムの新しいスパのスタイルを確立するきっかけになると思いますし、従業員の方の予防医療にもなると思います。
ぜひ、お試しください。
稲本 正
アマネム ウェルネスマネージャー
小林千恵子
こばやしちえこ 伊勢志摩のアマンの高級リゾート「アマネム」のウェルネスマネージャー。幼少期から人を癒すことに関心を持つ。資生堂や、グランドハイアット東京のエステティシャンマネージャーなどを経て現職。鍼灸あん摩マッサージ指圧師、温泉利用指導者、マクロビオティックインストラクター、セラピストとして総合的なケアを行う。
取材協力◎アマネム TEL0599-52-5000 https://www.aman.com/ja-jp/resorts/amanemu
日本産天然精油連絡協議会専務理事
稲本正
いなもとただし 1945年、富山県に生まれる。「正プラス株式会社」代表。一般社団法人日本産天然精油連絡協議会専務理事。国産精油yuicaブランドを立ち上げ、日本生まれの精油の普及を牽引する。1994年、著書『森の形 森の仕事』(世界文化社)で毎日出版文化賞を受賞。『森の惑星』(世界文化社)プロジェクトで世界の森林を訪ねる。
取材協力◎正プラス株式会社 https://www.yuica.com/ 一般社団法人日本産天然精油連絡協議会 TEL03-3423-7156 https://j-neoa.or.jp/