「日本産精油」をサロンで活用するには

投稿日:2019年6月27日

セラピスト誌で連載している『人と自然をつなぐ、日本産精油』。日本産精油ブランド「yuica(ゆいか)」の生みの親である稲本正さんが、日本産のアロマに関わる方々と往復書簡を交わし、日本のアロマを通した健康や文化のよりよい未来を探っていきます。連載第6回は、東京の下町で“隠れ家サロン”を運営する、介護福祉士でセラピストの島崎尚美さんとの往復書簡です。日本産精油をどのようにサロンに取り入れるか考えてみました。ここでは、本誌で掲載できなかった手紙の続きを紹介します。個人サロン運営の難しさにも触れていますので、参考にしていただければ幸いです。
構成◎本誌編集部 写真◎山下由紀子、漆戸美保

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稲本正さんから島崎尚美さんへの手紙

個人サロンならではの難しさを、どう乗り越えたのでしょう?

島崎 尚美 様

サロンを開かれて、もう、6年とのこと。
日本産精油を使ってのセラピーが評判のようですね。FacebookやInstagramで見る限りでは、自宅サロンも出張先での催しも定員になっているようで、頼もしい限りです。とはいえ、自宅でサロンを開いてそれを運営して行くというのは、これまでも何かと大変だったかと思います。

yuicaは、2001年ぐらいから日本の森からのアロマの研究を始め、地域資源活用型の委託研究を国から委託され、その後、農商工連携事業の支援も受け、満を持して2006年から売り始めました。そして、アロマ環境協会やアロマコーディネーター協会のイべントに出店したところその反響は予想以上で、たくさんの個人サロンがセラピーに取り入れてくださいました。なのに、その多くが半年ほどでなくなってしまいました。

サロン運営失敗の原因は千差万別で、とてもここには書ききれません。ただ、成功している人の秘訣には共通したものがあるように思われました。おそらく島崎さんも、その共通したものをお持ちだと思います。現在に至る島崎さん体験は、アロマのトリートメントサロンを開設しようとしている人や開設したけど運営が上手く行かなくて困っている人の参考になるはずです。ぜひアドバイスしてあげて欲しいので、改めて話を伺わせてください。

まず、旦那様は最初は賛成ではなかったと伺いましたが、それでも敢えてサロンを開設した決意の根源は何処だったのでしょう? 最初の決意がしっかりしていなくて、挫折した人をたくさん知っています。島崎さんの場合は、自身が日本産精油に接して何かインスパイアされたのでしょうか? それとも、人を救ってあげたいと言う慈善に対して強い意志、はたまた、日本のアロマでひと儲けしよう! と考えたのでしょうか? 島崎さんがサロンを始められた頃は、アロマと言えばまだまだ外国のもの。取り分けヨーロッパ産が主流で、日本産はせいぜいトッピング的な感じでした。そんな中、あくまでも日本産にこだわわったのはどうしてですか?

そして今は、自宅のサロンだけでなく、出張も含めてスケジュールが一杯になっているようですね。どんな工夫によりお客を増やしていくことができたのでしょう? また、島崎さんは精油だけでなく、クロモジ配合の化粧水やシャンプー等、yuicaの化粧品類の物販も好調ということですが、どのようにしておすすめされているのでしょうか。とても興味深いです。

最後に。島崎さんは同じくyuicaのスペシャリスト等、セラピストとの交流を頻繁にされていますが、交流することにどんな良い事があるのですか? ライバルではないのですか? 孤独になりがちな個人サロンのセラピストとして、気になる方も多いことでしょう。

交流といえば、島崎さんは5月に日比谷公園で開催された『みどりとふれあうフェスティバル』(東京都千代田区)に参加され、お客様にハンドトリートメントをされてましたが、日本産アロマの動向等、その体験を通して感じたことや意見を、ぜひ聞かせてください。

稲本 正

島崎尚美さんから稲本正さんへの手紙

忙しい現代人にこそ、信頼できる「アロマ製品」はうってつけだった

稲本 正 様

お便りありがとうございます。
家族の反対を押し切ってサロンを開設した思い、そして、個人サロンを運営していく中で、私なりに実践しよかったと思う事等をお話ししたいと思います。

子供達が保育園に通っていた頃、私は在宅介護の介護福祉士の責任者として働いており、職場と自宅の往復だけの毎日。仕事と子育てに追われ本当に疲れてきって、限界を感じていました。そんなことから、「世の中の女性は私のようになって欲しくない。自分を犠牲にし疲れてしまっている女性に寄り添って、アロマで癒してあげたい」と思ったのが、アロマセラピストになったきっかけです。この気持ちは、今も変わりません。

病気になってから健康に気をつけるのではなく、普段から自分の身体と向き合いながら、癒され、免疫力を高めていくこともできる。そんなアロマセラピーを学んでいくにつれ自分自身も健康になり、よりたくさん方に広めていきたいと、気持ちは強くなりました。

アロマセラピーは、最初に外国産アロマについて学びました。でも、植物の名前が横文字でピンとこなかったり、香りが個性的で馴染みのないものだったりと、慣れるまで少し違和感を感じる時も……。そこで、「日本産アロマがあれば、もっと身近に感じられのでは」と思ったのです。

そんな折、あるイベントで「黒文字(クロモジ)の香りを知っていますか?」という文字を目にしました。香ってみると、心地良く上品。この香りはとても衝撃的で、日本産精油に興味が湧きました。すぐにアロマスクールでyuicaを学び、日本産精油をサロンに導入したのです。すると、どこか懐かしい香りに、予想以上の好反応。サロンでケアされた方のほとんどの方がリピートされました。

なかでも人気なのは「クロモジ(黒文字)」。日本人に馴染みやすい香りであることだけでなく、シミやシワ、乾燥などの肌の悩み、不眠症や頭痛の悩みが改善されたと、その効果に多くの人が喜んでくださいました。ご自宅でも使いたいと製品を購入される方が多いのも特徴で、ご家族がアロマの香りが苦手で家では使えなかったという方も、家族皆で生活に取り入れているというのです。いまでは物販は、日本産アロマが主流となりました。

yuicaの物販が好調な理由としては、その効能はもとより、安心感と手軽さにあると思います。サロンのトリートメントで効果を実感し普段の生活に取り入れたいと思っても、肌が荒れる、なんだか身体の調子が悪いという方は、毎日忙しいく時間がない方ばかりです。手間がかかるうえ、日持ちもせず少量しか作れないアロマコスメを作る時間がないのです。

手軽で簡単で、心地よい香りの日本産アロマ製品があれば使いたいという方はたくさんいるはず。yuicaの製品はトレーザビリティーがしっかりしているので、自信を持って安心してお客さまにおすすめしています。最近では日本産精油の認知度もかなり高まっており、このような製品のニーズはもっと高まっていくのではないかと思っています。

集客においては、SNSを活用しています。アロマセラピーサロンを開業する為にアロマスクールに通っている時から頻繁にSNSを発信して、興味がありそうな方と繋り、輪を広げていきました。ここで、“個人サロン開業あるある”の“お友達価格”を行わなかったことが良かったと思っています。価格は、一度下げたらもとに戻すのは難しいですから。なので、キャンペーンなど時限的な値引き以外は行いません。サロンを“経営”するにあたり、これは大切なことだと思っています。

また、キャンペーンでは、月1回のアロマトリートメントではアロマセラピーの心身への有用性が伝わりきらないと思い、ホームケア用に黒文字シリーズの化粧品をお付けして、“次につなげる”提案をしました。すると、ご自宅で使っていただいたお客さまのほとんどが肌質の改善や体調の変化を実感し、施術も化粧品もリピートしてくださいました。

現在、サロンでは日本産精油を希望されるお客さまがほとんどで、何年もいらしている方ばかりです。

私は普段から、セラピストや同じ事に関心を持つ者同士の輪を広げ、交流を持つようにしています。SNSやイベントなどで気になる方がいらっしゃったら、つながり、会いに行き、意気投合すればコラボレーションして一緒にお仕事させて頂くことも。yuicaスペシャリストの方々は、ライバルではあります。しかし、お会いして話を聞くと、サロンやスクール経営での同じ悩みを共有できたり、また、迷っていることがあればアドバイスをし合い、今後の活動のヒントをもらったりしています。

昨年の『アロマ&ハーブexpo』では、yuica商品をyuicaスペシャリストチームで販売しましたが、ブーズには、ほかにも全国から日本産精油が集まっていました。そして、多くの方が足をとめてくださいました。5月の『みどりとふれあうフェスティバル』では、たくさんのお客さまが日本産精油のハンドトリートメントを希望され、日本産精油がセララピストだけでなく、一般の方々のからも高い関心を持たれているということを確信しました。

yuicaを学ぶまで、東京産まれ東京育ちの私は、アロマが採れる森、特に日本の森に全くという程興味がありませんでした。森は人間が生きていく上で重要であり、日本の森は生態系豊かであり、多種多様なアロマが採れる。アロマを採る事が環境保全の一役を担える事を学びました。イベントなどを通じ、こういった事も、伝えることができるようになりたいですね。

この7月で、サロン開業6年となります。さらに日本産アロマを身近に、サロンをもっとお客様にとっての癒やしの特別な場所になれるよう、今後もさまざまな提案をし努力していきたいと思います。

島崎 尚美

アロマセラピスト
島崎尚美

しまざきなおみ 生まれも育ちも葛飾柴又。頑張り過ぎる女性に寄り添いたいと、下町隠れ家サロンアロマセラピーサロン「Clear Sky」を開業する。“かゆい所に手が届くアロマセラピスト”をモットーに活動中。個人宅出張や、2箇所のアロマトリートメントの出張を行いう「フーテンのアロマセラピスト」としても、活動中。yuica日本産精油スペシャリスト。 取材協力◎アロマセラピーサロン Clear Sky http://clearskyaroma.com/

日本産天然精油連絡協議会専務理事
稲本正

いなもとただし 1945年、富山県に生まれる。「正プラス株式会社」代表。一般社団法人日本産天然精油連絡協議会専務理事。国産精油yuicaブランドを立ち上げ、日本生まれの精油の普及を牽引する。1994年、著書『森の形 森の仕事』(世界文化社)で毎日出版文化賞を受賞。『森の惑星』(世界文化社)プロジェクトで世界の森林を訪ねる。
取材協力◎正プラス株式会社 https://www.yuica.com/ 一般社団法人日本産天然精油連絡協議会 TEL03-6457-5883 https://j-neoa.or.jp/

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