研究者が語る、認知症予防とアロマセラピーの関係

投稿日:2014年5月8日

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近頃、「アロマセラピーが認知症の予防改善に効果がある」とテレビ番組で紹介され、一般層にも大きな反響を呼びました。認知症患者は年々増え続け、国民の関心が非常に高いことが浮き彫りになりました。認知症に対してアロマセラピーはどのように効果があり、研究は現在どこまで進んでいるのでしょうか。第一線で最先端の研究を続ける、昭和大学医学部顕微解剖学教室兼任講師の神保太樹さんが解説します。

取材・構成◎田中響子

増える認知症患者と、関心が高まるその予防

 高齢化が進む昨今、同様に認知症患者の数も増加しています。厚生労働省の調査によれば、65歳以上の約1割が認知症です。
認知症には、主に2つの症状があります。1つは「中核症状」といって、記憶障害、時間、場所、人を理解できなくなる見当識障害、計算能力や判断力が低下する認知機能障害。もう1つは「周辺症状」といって、幻視、妄想、徘徊、睡眠障害、うつ、不安といった行動、心理症状です。
近年、統合医療の概念が普及しています。認知症のシーンにおいても、非薬物治療を用いたケアの面から、認知症患者の治療を考える補完代替医療が注目されるようになってきました。
アロマセラピーは植物から抽出されたエッセンシャルオイルの香りによる効果を経験的に分類し、効能別に使用してきた補完代替療法の1つであり、多くの分野で利用されています。現在、手で触れるセラピーの要素を含んだアロマトリートメントや、芳香浴などが主流です。私もアロマセラピーでEBM(科学的根拠に基づいた医療)が立証できないかと、臨床研究を行っています。中でも嗅覚と脳の関係に注目しています。嗅覚器は視覚や聴覚など他の感覚器とは異なり、比較的年齢に関係なく新しい細胞を生むことが分かっています。

アロマセラピーで改善される認知症の症状

 香りを嗅ぐことで、鼻から脳に刺激が与えられます。この刺激が与えられる部位の中でも重要なのが脳の中でも内分泌系と自律神経に影響を与える大脳辺縁系です。ここから体温調節や睡眠や摂食、感情の中枢となる視床下部に伝わり、そこから自律神経へ影響を与えて、気持ちを落ち着けたり、元気にしたり、楽しい記憶を引き出すといった働きを促します。また、視床を介さずに直接脳の中枢にアプローチする経路もあります。
私は鳥取大学で2005年からアルツハイマー病認知症患者を対象にアロマセラピーを使った臨床研究を行いました。その内容は、午前9時~11時にローズマリー・カンファーとレモンのエッセンシャルオイル、午後7時30分~9時30分にラベンダーとオレンジのエッセンシャルオイルの香りを散布し、患者さんの認知機能や気分など他の症状についての変化を観察するというものでした。
ローズマリーには集中力を高め、記憶力を改善する働きがあり、ラベンダーには睡眠状態の改善作用や不安感を軽減する作用があります。
研究は28日間で1クールとして行いました。その結果、記憶が改善したり、認知機能の衰えが改善した他、気持ちが高揚したり、不安がなくなるなど、多くの患者さんの症状に変化が見られました。素晴らしいのは、中等度のアルツハイマー型認知症の患者さんのみならず、高度なアルツハイマー型認知症の患者さんにも改善が見られたことです。
その後の研究では、アルツハイマー病の患者さんは嗅覚が弱い傾向にあることが明らかになったのですが、軽度から中等度のアルツハイマー病に関しては、嗅覚を通して海馬が活性化されることが分かりました。これにより、鼻の機能が改善されることが分かっていますが、認知機能障害も同時に改善されるということが、明らかになりました。

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嗅ぐ時間帯 嗅ぐ精油
9:00〜11:00 ローズマリー・カンファー/レモン
19:30〜21:30 ラベンダー/オレンジ
2005年に行われた、アルツハイマー病認知症患者を対象にしたアロマセラピーの臨床研究

 

医療領域で、今後も期待されるアロマセラピー

 こうした結果を見ているうちに私は、耳鼻咽喉科で2~4割ともいわれている原因不明の疾患は、もしかしたら中枢神経に原因があるのではないかと考えるようになりました。嗅覚に訴えることで脳が刺激され、働きが改善されるのであれば、手軽に使えるアロマセラピーは有用なのではないでしょうか。アロマセラピーには重大な副作用の心配がありませんから、医療を受けながらの併用もおすすめ出来ます。
またアロマセラピーは手軽に行えるため、ご家庭や介護、デイケアといったさまざまな場で使っていただけるという利点もあります。私の研究では、ディフューザーを使用しましたが、アロマオイルを使った腕や手先へのマッサージはスキンシップにも繋がるので、言葉を介さないコミュニケーションの一助にもなることでしょう。また、香りを通して介護者自身も脳に刺激が与えられるので、介護者本人が気持ちのリフレッシュになり癒されるという利点もあります。
今後、さらに医療の現場でのアロマセラピーが認知されることを期待しています。

 

著者プロフィール

神保 太樹(じんぼ・だいき)さん

昭和大学医学部顕微解剖学教室兼任講師、独ブランデンブルグ州立大学客員講師、日本アロマセラピー学会理事、日本長寿健康応用学会常任理事他。2011年3月に鳥取大学医学系研究科において学位を取得。同年4月より昭和大学医学部第一解剖学教室ポストドクター、7月より現職。現在の研究テーマは「嗅覚刺激による脳神経の制御」、「認知症高齢者におけるリスクファクターの同定と新規スクリーニング法の開発」など。

 

5月7日発売の「セラピスト6月号」では、特集「医療現場で活躍するアロマセラピストになる!」をお届けします。現在の医療現場におけるアロマセラピーの有用性、医療現場でアロマセラピーを実践するセラピストや看護師のリポートや、メディカルアロマスクールが見る業界動向などをご紹介します。

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