セラピストの基本であり、一生磨きつづける技術でもあるタッチング。優れたタッチングは、人を安心させ、身体の自己治癒力を呼び起こす力があります。では、どのようなことをこころがけると、優れたタッチングができるようになるのかというと、それは多種多様。セラピスト1人ひとりが、セラピーの場で培ってきたさまざまな方法があります。現在発売中のセラピスト8月号で「タッチング特集」を掲載していますが、さらにこの記事では、現場のセラピストが教えるタッチングのポイントを、前編・後編に分けてご紹介します。
構成◎本誌編集部
(写真はイメージです)
1.まずは「自分自身」でいること。そのために、日々、コンディションを整える
タッチングのときに大切なのは、
まず「私自身が、自分という存在の中心にいて、ニュートラルであること」です。
「自分自身で在る」ために、具体的に何をするかというと、
日々、体調・メンタル・エネルギーのコンディションを整えることが大切ですね。
そして、お客さまをサロンにお迎えしたら、相手の緊張が少しでもほぐれるようにお茶を飲んでいただいたり、オラクルカードを使ってリラックスしていただきます。
施術前になったら、身体のポジションを整えます。
呼吸を整え、心身ともに自分の軸をつくり、地に足をつけ(センタリング、グラウンディング)、エネルギーフィールドを整えていきます。そして心の中で、相手の方に触れる許可を得ることも行います。
施術中もいくつか気をつける点があります。
施術の前と同様に、常に自分の軸をつくり、かつニュートラルになる体勢を確保して、呼吸に気を配ります。また、目を閉じないようにも気をつけます。そして、人はエネルギーのような光を放っているので、セラピストは透明な手を通過させるイメージで、クライアントの持つ光を遮らないようにタッチしていきます。
このように、タッチングを行うためには、セルフケアから、お客さまをお迎えし、施術前後に至るまで、常に行うことがありますね。
とはいえ、タッチングによってミラクルが起こるのは、
やはり双方が安心してくつろいで、ありのままの存在同士として共鳴が起こるときなのだと思います。
2.クライアントにもタッチングの種類を知ってもらう
セラピスト側の準備も大切ですが、施術を受ける側にも、どんなタッチングを求めているかを事前に考えてもらうといいと思います。
なぜなら、「凝りや痛みを取りたいのか」「自律神経を整えたいのか」で、必要なタッチは変わってくるからです。
タッチには、大きく分けて、2つのアプローチがあると思います。
1つは、筋肉や筋膜に働きかけて動かしたり、刺激して効果を出すもの。一般的なマッサージや指圧、アロマテラピートリートメントのほか、旧来のロルフィングなどもこの部類に入ると思います。
もう1つは、圧や刺激を加えず、静かに手を添えて身体のリズムを整えるタッチ。クラニオセイクラルバイオダイナミクスや気功、レイキ、ソマティックエクスペリエンスのSEタッチもこちらですね。どちらが向くかは人によって違うでしょう。
それからどのようなセラピストにセッションをお願いしたいのかも、前もって決めてもらいましょう。タッチを専門とするセラピストは、会話でのカウンセリングを行わない人も多いので、セッションで、自分の悩みを話したいのか、あるいは全く話したくないのかを考えてもらうこと。
特に、トラウマケアのためにタッチセラピーを受ける人は、施術中に急に記憶がよみがえったり、ショック反応が出ることもあるので、トラウマケアの知識と経験が豊富なセラピストが施術することをおすすめします。また、男性セラピストと女性セラピストのどちらが落ち着くのかも大切な要素ですね。
そして、料金の他、何回くらい受けると効果が出るのか。お部屋の明るさや音楽、焚いているアロマなどが合わなかったらそれを変えてもらえるのかも、確認していただくといいでしょう。
3.クライアントとの間に適切な境界線をひき、タッチを安定させる
安定したタッチを行うためには、「精神的にタフであること」が重要です。
セラピストである自分自身が、メンタルの問題を抱えていませんか?
人から必要とされたいあまりに、セラピスト自身がクライアントの問題にとりこまれてしまうと、消耗してしまいます。
心配や気遣いはしてもかまいません。でも、セラピストとしてできることの限界は知っておかなければなりません。決して自分と他人を同一視しないことが大切です。
私の場合は、イメージの中で「お客さまごとの引き出し」をつくり、適切な境界線を引いています。施術の準備や、メールのやり取りなど、おひとりごとに個別の引き出しを開け、それを終えれば、その引き出しはすみやかに閉じられます。そのようにして、セラピストとしての自分と、素の自分を分けています。
また、お客さまを「好き・嫌い」「合う・合わない」で分けてしまうセラピストがいますが、これはてきめんにタッチに反映されます。
イヤイヤ触れるのと、大切に思って触れるのとでは、タッチに違いが出るのは無理もないことですが、「合う・合わない」などは、お客さまが決めることであり、セラピストが判断するものではありません。むしろ、「そう感じる自分こそが狭量なのだ」と気づくことができれば、人格的に成長する可能性があると思います。
また、基本であるにもかかわらず、なおざりにされているのが、「手指のケア」ですね。手荒れや爪が伸びていたり、手が硬いために触れたときの感触が痛く感じる人が意外と多いので、気をつけましょう。
安定したタッチで施術に集中できるよう、必要な道具を揃えたり、手順をスムースに進めたり、手のケアをする。このような準備は大切です。
4.皮膚や筋肉の層といった解剖学を学び、感じ取れるようにする
セラピストになりたての頃は、手技や順番を覚えるので手一杯です。技術や接客などをひと通り経験した後に、「タッチング」の力を深めていくといいでしょう。
私自身は、お客さまに喜んでいただいた手技をもっと磨いたり、他のスタッフの施術を受けると同時に、筋肉の繋がりを独学で身につけていきました。そして、セラピストになって3年くらい経ってから、皮膚や筋肉の層を感じる繊細なタッチングができるようになりました。
最近は、筋肉の固さなどを感じながら施術していると、「何でここが辛いのが分かるんですか?」と言われることがよくあります。タッチングは、職人として一生磨き続けるものです。そのため、経験とともにお客さまのさまざまな問題を感じとる力はより強く、繊細になっていくので、こうした反応をもらえるととてもうれしいですね。
ちなみに、新人セラピストでも、タッチングに秀でている方がいました。
ピアニストとして経験を積んだ方で、触覚をしっかり使い、感覚を研ぎすましてきたので、ピアノの鍵盤から人の肌に対象が変わっても、同じように深く感じられるようです。
5.”ココロが平ら”でいられる生活をこころがける
タッチングとは、「身体との対話」だと思っています。
そこで大切なのは、クライアントさんの訴えや性格、思考パターンなどを頭の片隅に置きつつ、施術ではこのような先入観を一回外すこと。そして、ただただ「カラダ」と向き合うことです。
私は、人の身体は「魂の器」のようなものだとイメージしています。器の持ち主であるお客さまが、その器をどのように使っているのかを観察しながら、それを丁寧にお手入れするのが、「タッチング」ではないでしょうか。
お手入れをするときに大切なのが、セラピストの「ココロ」の状態。触れる手の湿度、体温、手のひらの硬さが、お客さまの心身や施術の結果に、ダイレクトに影響を与えます。
もし気持ちが落ち着いていないと、交感神経が高ぶり、手のひらが冷たくなったり、力が入り、フカフカにはほど遠いゴツゴツの手になります。その結果、タッチングもザツになります。
以前、兄が心筋梗塞で手術をしていた時、どんなに丁寧なタッチングを心がけてもお客さまはごまかせませんでした。「今日は体調悪いの? 手が冷たいけどちゃんと休んでる?」と言われてしまい、本当にドキっとしました。
また、私はセラピーと並行して、藍の布ナプキン(カリス成城やアロマテラピーの学校、松ヶ丘治療院などで販売)を作る活動もしているのですが、藍染めでも同じことが言えます。藍染は、染めをする人の心が落ち着いていないと色ムラが出てしまうと言われています。慌ててしまうことによって手の温度や湿度も変わり、仕上がりの色に影響を及ぼしてしまうそうです。
ふわりとした優しい感触の手をもつためには、セラピストがリラックスしていることは、大切な要素の1つです。手に職を持つ者には、共通することだと思います。