英国が誇る世界最高峰のガーデニング・ショー「チェルシー・フラワー・ショー」。2022年は3年ぶりに5月に開催されました。ロンドン在住の臨床心理士・松田さと子さんは、毎年このイベントに参加しています。本誌10月号でも、メンタルケアと英国ガーデニングの深い関係についての解説記事を掲載しました。webでは特別に、松田さんの「チェルシー・フラワー・ショー」イベント・レポートを、美しい写真とともに紹介いたします。
写真・文◎松田さと子
今年のチェルシー・フラワー・ショーには、大きく3つのテーマがありました。
1「自然の大切さや美しさの再発見」
2「人と人の絆の再構築」
3「メンタルヘルス」
このうち、3つ目の「メンタルヘルス」に関しては、本誌で詳しくご紹介いたしましたので、他2テーマのガーデンについてお伝えしたいと思います。
自然環境の「今」と「課題」
1つ目のテーマ“自然の美しさや力強さを再発見できるガーデン”で、最も異彩を放っていたのは、人によって開発された場所を自然な状態に戻し、生態系にとって必要な生き物を再びそこに放つことによって生態系を回復させる再野生化ガーデンです。
「自然が蘇る英国の景色(A Rewilding Britain Landscape)」というテーマでビーバーのダムを作り、人間が少し手助けすることで自然は自ら治癒する力を持っていることを示し、ベスト・ショー・ガーデン賞に選ばれました。
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ベスト・ショー・ガーデン賞に選ばれた、「自然が蘇る英国の景色(A Rewilding Britain Landscape)」
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景観作りの中では、実際にビーバーのかじった枝が使われている
ダムを作る木の枝にはビーバーがかじって積んだものが使われていました。ビーバーが住めるということは周りの自然が豊かだという証拠で、ビーバーが作るダムによって、魚が昆虫の数が増え、それを餌とする野鳥も増えるなど生物多様性が豊かになり、自然の再生力がますます高まるそうです。
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サステイナブルな素材を活かした「未来をつくるガーデン(Medite Smartply Building the Future)」
これは、美しい自然の景色を都心でも楽しもうという意図で作られた「未来をつくるガーデン(Medite Smartply Building the Future)」です。英国のコーンウォール州北部の海岸線で見られる断崖にインスピレーションを受けた滝の流れる岩場が見事でしたが、これらは全てMDFという間伐材を繊維状にした木材を接着剤と合わせ、熱や圧力で固めたサステイナブルな合板でできています。鉄鋼で作られたように見えるオブジェも軽量なMDF製。Medite Smartply社が新しく切り開くサステナブルな建材の可能性に関心が集まっていました。岩場の上は草屋根になっていて、グロットの中にはベンチがあり、涼を感じる空間でした。
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「氷のガーデン(The Plantman’s Ice Garden)」は、会期中に溶けきることはなかったが、徐々に形を変えた。左が初日、右が5日目の写真
地球温暖化、環境問題を取り上げた展示で、多くの方の興味を集めたのが「氷のガーデン(The Plantman’s Ice Garden)」です。お庭には大きな氷のキューブがあり、キューブの中にはお庭の植栽も固められていました。5日間のフラワーショーの期間中に徐々に溶け、少しずつ植物が顔を出します。
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氷で固めた植物は、ショー始まって以来の試みだった
温暖化で北極圏の永久凍土が溶け、凍っていた植物が表に出てくる様子が表現され、危機感や関心を高めるとともに、溶けた氷から玉手箱のように新しい発見があるのではないかという高揚感も表しているそうです。ショー始まって初の斬新な展示と評判でした。
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俳優のジュディ・ディンチ氏(右)と松田さと子さん(左)
これはガーデンではありませんが、英国の林業を再生し、英国の木材利用を拡大しようという展示です。国土の大半が森である日本とは対照的に、英国は大量の木々が薪として切り取られていった歴史があります。ショーには、映画007シリーズのM役でも知られるジュディ・ディンチさんも参加し、彼女の大好きなシェイクスピアと樹木のエピソードなどを交えて、英国の森林再生を訴えました。
ガーデンを通じて愛と喜びに触れる
二つ目のテーマ、人と人の絆の再構築でご紹介したいのは、ショーの一般参加者の投票で選ばれるピープルズ・チョイス最優秀賞を受賞したガーデンです。
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ショーの一般参加者の投票で最優秀賞に選ばれた「愛を込めて (The Perennial Garden “With Love”)」
中央に運河が流れ、左右対称に草木が植えられたガーデンは「愛を込めて (The Perennial Garden “With Love”)」と名付けられました。中央には電光掲示板があり、英国の詩人アルフレッド・テニスンの詩「もし君を思う度に花が一輪増えていくのなら、いつまでもこの花園を歩くことができる」が引用されています。このガーデンをデザインしたリチャード・ミアーズ氏は、園芸は愛情表現そのものであると言い、造る側にも、訪れる側にも、喜びを与えるものだと言います。ガーデンの名称にあるThe Perennialは、園芸職人をサポートする慈善団体です。
ガーデンと慈善団体の間を繋ぐ寄付の文化
さて、ここからは少しイベントの裏側に触れてみます。
チェルシー・フラワー・ショーにおいて、幾つもの美しいガーデンの展示を可能にするのは何でしょうか。ガーデナーの人が、ガーデン施工を期待して、私財を投入することで出展する場合も企業がスポンサーにつく場合もあります。世界一の舞台に立たせてほしい、とクラウドファンディングを行う例も見られます。
しかし、最も勢いがあるのは、寄付による造営です。例えば、企業や団体は「心の健康の重要性」を訴えるガーデンの造営に寄付することで、心の健康に真剣に取り組んでいることをアピールしています。チェルシー・フラワー・ショーという世界から注目され、10万人のセレブリティーや富裕層が集まり、BBCなどのメディアの露出も多い舞台は、アピールに最適であるためです。名だたる投資銀行や資産運用会社も、ガーデンショーに貢献するだけでなく、有望な顧客を招いて接待をするホスピタリティを行ったり、間接的ながらRHSとガーデニングの普及に貢献しています。
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心の健康を目指す「マインド・ガーデン」。会期中もここで実際にセラピーが行われていた
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Bodyshopがスポンサーを務めた「ザ・ボディショップガーデン」のテーマは、自然の回復力と再生
さらに今年からは、2人の篤志家の寄付により成立したプロジェクト・ギビング・バックという仕組みが導入されました。慈善団体に支持や寄付を集める機会とガーデンデザイナーには、チェルシーに挑戦するチャンスを与えようとするもの。これは総額20億円で3年間で40を超えるチェルシー・フラワー・ショーのガーデン造営費を提供するという試みで、ビーバーの巣が特徴的な「自然が蘇る英国の景色(A Rewilding Britain Landscape)」ガーデン、そして、心の健康を目指す「マインド・ガーデン」などが、この取り組みで造営されました。心の健康、教育、森林再生など、12の慈善団体から1つの課題を選び、それに呼応したガーデンを造営してチェルシー・フラワー・ショーで公開。社会の課題を幅広く提起し、完成したガーデンは関連施設に寄贈されます。
英国において慈善団体の活動を支援する寄付は活発で、寄付総額は、1兆5035億円(一般社団法人社会変革推進財団)。これは日本の7756億円の倍。日本の方が経済規模が大きいので、GDP比では、英国0.54% 対 日本0.14%とさらに差が開きます。これは、英国では楽しいイベントに参加していたら、それがチャリティーイベントだったということも多々あるためでしょう。
英国と日本では、こういった寄付文化の違いがあることも知っておくと、よりイベントを興味深く楽しめるのではないでしょうか。
チェルシー・フラワー・ショーの様子を撮影した写真を、Instagramでも公開しています。美しいガーデンや取り組みの様子をご覧いただけます。
(Instagram ID:satokomind)
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さまざまなガーデンや仕掛け、催しがショーを盛り上げた
『セラピスト』読者へのお土産プレセント!
今回特別に、松田さと子さんが読者に「チェルシー・フラワー・ショー」のお土産を用意してくれました! 以下の4点をセットで1名様にプレゼントします。
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②「チェルシーフラワーショー2022ボールペン」
③RHSや英国の主要なイベント日・ホリデー名が載っている「2023年のRHS slim diary」
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(応募締め切り:2022年11月6日まで)
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