「セラピスト8月号」で、脳疲労を回復しストレスフリーな心身へと導くアクアセラピー「WATSU(ワッツ)」と「ドルフィンセラピー」を紹介した、日本スパカレッジ、沖縄WATSUセンターのセラピスト、小笠原徹さん。
ここではさらに深くドルフィンセラピーについて、そのストーリーと共にイルカと海が導くヒーリングパワーを紹介します。
文・写真◎小笠原徹
フロリダ州パナマシティで私たちが行っていた野生のイルカとの交流プログラムは、主に自閉症などの発達障害のための感覚統合療法や、その他の障害、病気やハンデを負った子どもたちのための心のケアを目的として、セラピープログラムとしても運営していました。
「心のケア」というと、ほんの一部の解決にしかならないようにも聞こえるかもしれませんが、ときに、心の変化によってすべてが変わることがあります。そもそも、私たちのプロジェクトが始まるきっかけを与えてくれたのが、ベルギーのマリーちゃんという女の子でした。マリーちゃんは当時9歳。白血病で余命半年と宣告されていました。彼女の夢はイルカと泳ぐこと。慈善財団の協力によって、マリーちゃんのフロリダ・ドルフィン・ツアーが実現しました。
イルカたちのマリーちゃんに対する反応は特別なものでした。マリーちゃんが海に入ると毎回、近くのイルカたちすべてが方向転換をしてマリーちゃんに集まりました。わーっと集まるのではなく、静かに、順番に、優しくマリーちゃんの近くを泳ぐのです。うち何頭かは、胸ヒレでマリーちゃんの身体をなでるように触っていきました。イルカたちの気遣いにあふれた振る舞いは、関係者を驚嘆させました。 たまたま近くにいた他の観光客が、マリーちゃん(というより、一緒にいたイルカ)に向かってバシャバシャとはしゃいで泳ぎ寄った場面がありました。そのイルカは、マリーちゃんを守るかのようにものすごい威嚇をして(歯を鳴らす/尾ヒレで水面を叩く)男性を追い払ったのです。
マリーちゃんは一週間の滞在中、毎日イルカに囲まれて幸せに過ごしました。はじけるような笑顔で「また来るね!」という言葉を残して、フロリダを去っていきました。
これは、今から20年以上前の出来事です。マリーちゃんは、今でも生きています。臨床心理を専攻して大学院を卒業し、現在は難病の子どもたちを支える第一線で活躍しています。この奇跡のような出来事は、イルカが魔法をかけたわけでも、エコロケーションが作用したわけでもありません。 後年、マリーちゃんの奇跡的な回復によって慈善財団が動き、難病を抱える子どもたちを毎年10人ずつフロリダに送るプログラムが開始されました。10代で、もう治らないという病気を抱えている彼らの口からも、イルカと泳いで「生まれてきて良かった」という言葉が出てくるのです。この言葉には、確かなパワーが宿っています。
マリーちゃんは、奇跡でも何でもない、誰でも持っているこの生命のエネルギーを、身をもって証明してくれたのです。